映画「裏切りのサーカス」続編を願う | 三食カレーの 振り向けば桃源郷

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2011年製作の映画「裏切りのサーカス」は、ドンパチとは無縁ながら緊迫感あふれるスパイ映画の傑作だった。ジョン・ル・カレのジョージ・スマイリー三部作の第一作「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の忠実な映画化であるが、文庫本で500ページを超える複雑なストーリーを追いながら、ダイジェスト色をまったく感じさせなかった。

英国情報部を追われるように去ったスマイリーが、情報部中枢に巣食うモグラをあぶりだすメインのストーリーに、かつて自身が情報部で働いた経験をもつル・カレが、細部にキラリと光るエピソードをちりばめてくれる。

情報部のクリスマス・パーティーで、酔った部員たちが敵国ソ連の国歌を大合唱するシーンには、ニヤリとさせられた。昔、ある日本の警察の警備公安エリートが、記者クラブとの懇親会で、革命歌「インターナショナル」をアカペラで大合唱したという話を思い出したからだった。

スマイリー役のゲイリー・オールドマンは言うに及ばず、コリン・ファースのビル・ヘイドン、ベネディクト・カンバーバッチのピーター・ギラム、さらにはトビー・エスタヘイス、コニー・サックスなど、この役にはこの俳優しか考えられないほどにピタリとはまっていた。

 

そこで待たれるのが続編。原作第二作の「スクールボーイ閣下」は、シリーズでは番外編的なストーリーであり、第一作につなげるには、第三作で同時に完結編である「スマイリーと仲間たち」しかありえないだろう。実際には後日談風の「スパイたちの遺産」が発表されるのだけれど。

問題は、第一作から時間がたちすぎていて、あのメンバーを再結集できるかということだ。オールドマン以外のスマイリーなどもはや考えられないだろう。だがカンバーバッチは、すっかり大物俳優だ。ドイツ軍の暗号システム、エニグマ解読に挑む天才数学者に扮した「イミテーション・ゲーム」では堂々の主役を張っている。最近WOWOWでみた映画では、白髪頭の初老の人物を演じていた。

第三作(ややこしいけど、映画になれば第二作ですね)にも、これらサーカスのレギュラー陣が重要な役割で登場する。なんとか全員再結集してもらうしかないでしょう。それだけの価値のある続編になるのはまちがいないのだから。

「スマイリーと仲間たち」を最近再読した(実際はもう何度も読み返しているのだけれど)。あれ、このシーンは映画で見たぞ、という個所に何度か出くわして、しばし考え込んでしまった。

連絡役に選ばれた長距離トラックの運転手が果物のバスケットをフェリーのベンチに置いて戻ってみると、ベンチに受け取ったという印の黄色いチョークの線が引かれている。ソ連からパリに亡命した老女が、何者かに襲われ路上に転倒する。黄色いチョークなど、僕の網膜にはっきりと焼き付いているほどだ。

 

映画にはなっていないのに、と不思議に思っていたが、はたと気が付いた。ル・カレの筆があまりにクリアに情景を描き出してくれるので、ぼくは映画の一場面として記憶してしまったのだ。

こうなると、続編はゲイリー・オールドマン以下レギュラー俳優たちによるサーカスの再現以外考えられないでしょう。ストーリーは、太い幹(メインテーマ)とそれを彩る豊かな枝葉。完璧な傑作だ。

あとは時間との戦いだ。カンバーバッチの白髪が増えないうちに、クランク・インしてください。