敵を知れども己を知るな | Thousand Days

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さうざん-でいず【千日手】
1. 同一局面の繰り返し4回。先後入れ換えてやり直し。
2. 今時珍しく将棋に凝っている大学生の将棋系ブログ。
主に居飛車党過激派向けの序盤作戦を網羅している他、
雑学医学数学物理自転車チェス等とりとめのない話題も…

※凝固系/赤血球『C・H・Iが止まらない』


核をブチ抜かれた赤血球やバラバラに千切られた血小板とは異なり…白血球は見た感じ普通の細胞っぽい。
血球の中では少数派だがそれでも1ccあたり4000~8000ぐらい居て、種類も実に豊富だ。

血管内に限らず身体中をうろつき回る彼らの仕事…それは「喧嘩をすること」である。

血液と膠原病と感染症の交差点にあるだけに、中々どうしてややこしい。。




例によって学問的厳密さの欠片もない漫画だが、
白血球は「リンパ球」と「その他」で大別できる。
(前者は警視庁のエリート、後者は普通のお巡りさんみたいな感じだろうか…?)

自然免疫には他にも異物を押し返す皮膚や線毛
菌やウイルスに特有の構造に反応するブービートラップ(PRR)など進化の過程で無数に用意されている。


細胞の外で暴れている病原体を相手にするとき、
主役になるのは好中球とマクロファージ
いずれも敵を呑み込んで毒を浴びせるという何とも鬼畜な戦い方をとっている。

樹状細胞(とマクロファージとB細胞)の仕事として、
捕まえた敵の断片をT細胞に見せる抗原提示もある。
これは本当に敵なのか/誰が中心になって戦うべきかを軍師様に伺っておくのは非常に大切だ。




もし敵が細胞内に侵入してくるタイプだと、当然ながら戦術は大幅に変更せざるを得ない。
では白血球達がどうやって不健康な細胞を見分けているかというと…

人体の細胞は皆MHCクラスI分子を持っていて、
「わたし元気なんで殺さないでください」という証として細胞表面にそれを発現させている。
もし疲れ果てた細胞がMHCクラスI分子を出し損ねたら最後、NK細胞によって殺されてしまう。


結核に代表される防御力の高い細菌や、絹糸のようにいくら殴っても不毛なだけの人工物など…
マクロファージのMAX攻撃力を以てしても中々倒せない強敵に対しては肉芽腫ができる場合もある。

これはマクロファージ達が残してあった二回の変身(類上皮細胞・巨細胞)を使って敵を命懸けで封印しにかかるという、
まさにドラゴンボール(の魔封波)的なノリの奥義だ。




抗体補体もサポート役という点では同じだが…
どちらかといえば補体のほうが旧式で、
何が来てもオーダーメイドで対応できる抗体のほうが新世代型といえる。(その分バグも多いけれど)

抗体がどうしてああも意味不明なレベルで多様な構造をとれるかは非常に複雑なのでここでは省く。
※ちなみにその仕組みを解明してノーベル賞を獲ったのが、かのトネガワ先生である。

抗体はもちろん、補体のシステムも本当によくできていると思う。…恐ろしく空気の読める奴である。
(きっと「古典経路」も抗体サイドと歩調を合わせるため新たに開発された経路なのだろう…)


「免疫」の本来の読みは「やまいをまぬがれる」。
一度抗原に出会うと、次の来襲に備えて丁度いい抗体を出せるB細胞の一部が何年も待機してくれる。
(本気を出せばリンパ球は相当長生きするらしい)

…何ともありがたい話である。ちなみに、ワクチンも基本的にこの機構を利用している。

※ただ、Th2は液性免疫だけでなくⅠ型アレルギー反応の指揮官でもあるので…
肥満細胞・好塩基球のツノとなるIgEや、好酸球を元気にするIL-5なども大いに放出してしまう。




リンパ球には「味方か敵か」を判定する義務があり、
特に全体の指揮をとるヘルパーT細胞が判断を誤れば…即座に自己との不毛な戦いが始まってしまう。

故に彼らはエリートに相応しい細胞となるため、
「己とは何か」について厳しく学ばされる。。
(ちなみにNK細胞の教育課程は謎に包まれている)

B細胞は比較的自由気ままな校風の骨髄で育ち、
それとは対照的にT細胞は「胸腺」という恐ろしい全寮制中高一貫校に強制入学させられる。
※校則は「敵を知り、己を知るな。知ったら死ね」

どれほど厳しいかというと…軽く九割以上が死ぬ
あらゆる自己抗原を見せつけられ、それに一度でも反応してしまったら殺される。
(まあ仮に胸腺から生還できても末梢で消されるけど)


この非人道的な教育過程がどうして「寛容」と呼ばれているのか、私には不思議でならない。。




p.s.('14-10-24)
血球を造る工場、骨髄から採った液には未熟な血球さん達がたくさんいて実に紛らわしいが…
成長とともに小型化&核が歪んでいくのと系統ごとに核の模様が違うため、一応区別はつく。
(ただリンパ球はどれも同じに見えるので、CDなんたらと呼ばれる帽子分子を染めて見分ける)

再生不良性貧血(AA)では放射線や抗がん剤やベンゼンなどによってこの骨髄村全体が過疎り、
骨髄異形成症候群(MDS)では奇妙な血球が色々できてしまい社会=末梢血中に出せなくなる。

逆に慢性骨髄性白血病(CML)では9番と22番染色体が変身して若い血球を「増やし」ていき…
ある日そこに「大人になるのをやめさせる」変化も加わって、急性白血病へと転化を起こす。

大人になるのをやめたピーターパン血球が勝手に増えまくる状態が急性白血病(AML/ALL)で、
他の健康な赤血球・血小板・白血球の育成が邪魔されて貧血・出血傾向・易感染などを伴う。


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