第四章 沖縄の海(1)
【 武尅隊の足跡 】⑨
先発隊出撃前
神参謀の命令を受け、廣森隊長は翌朝の作戦を隊員に伝えます
一編隊がおとりとなって敵を誘導、その間に二編隊が一気に敵艦に突入 。
そして廣森隊長は、
「いよいよ明朝は特攻をかける。皆いつものように俺についてきてくれ。
だが、ひとつだけ約束してくれ。
今度生まれ変わったら、たとえ蛆虫(うじむし)に生まれ変わってきても国を愛する忠誠心だけは失わないようにしよう。」
一方、整備班長の佐藤曹長も整備員一同を集めてこう言います。
「満州からこの沖縄まで愛機、操縦士たちと寝食を共にしてきた。
ここに及んで離れがたく、明日我々も同乗して共に祖国のために散ろうではないか。」
整備員たちも異論はなく、その気持ちを伝えると、廣森隊長は、
「貴官たちは武尅隊の戦果を確認し速やかに原隊に復帰すると共に後から続くことを信じていると伝えてもらわなくてはならない。」
そう話し、整備兵たちの希望は叶いませんでした。
明けて3月27日、朝5時、廣森隊長は隊員に最後の訓示を与えます。
白クニ見ユルハ燦蛍セン愛機デアル
白ノ鉢巻ハ関東軍司令官ヨリ戴ケル血染ノ鉢巻デアル
六時二十分〜六時四十分ノ間ニ自爆ス
隊長が乗り込みます。隊長機付の佐藤曹長が「
ご成功を祈ります。」
と言うと隊長は
「帰りの小遣いに使ってくれ。」
とポケットから財布を取り出して財布を渡しました。
清宗少尉(特攻戦死後大尉)も「
頼むよ」
とただ一言だけ残して財布を渡します。
「どうしようもなく涙が止まらなかった。」
と今野さん(佐藤曹長)は回顧しています。
武尅隊員(だれかは不明)と思われるの遺体の一部
(沖縄公文書館資料・写真加工済)
かくして清宗編隊、隊長編隊、林編隊の順に飛び立ち、武尅隊先発隊九名全員は慶良間列島付近の敵戦艦に突入を果たしました。