中国が台湾からのパイナップルを輸入停止に/台湾のTPP参加の切っ掛けになるか | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

中国が露骨に台湾へ圧力をかけ始めました。

 

 

 
台湾から中国に輸出されているパイナップルについて、中国の税関当局は害虫が検出されたとして、3月1日から輸入が停止されることになりました。台湾の農業委員会によると、去年10月に対策を強化してから害虫は1度も検出されておらず、パイナップルの産地の台湾南部に支持者が多い政権与党は「政治的な動機を疑わざるを得ない」と、中国を非難しています。
去年、台湾から輸出されたパイナップル4万5000トン余りのうち、97%を中国向けが占めており、今回の中国当局の決定は、これから本格的な収穫期を迎える台湾南部の産地に打撃を与える可能性があるとのことです。
 
台湾のパイナップル輸出はほとんどが中国向けなので、中国が輸入停止措置を取れば台湾のパイナップル農家は大打撃を受けることになりますが、例えばこれを奇貨として日本が台湾産パイナップルの輸入を拡大することを一つの提案として、台湾のTPP参加を促すことはできないか検証したいと思います。
 
○日本のパイナップル自給率
国内生産量:約7350t
輸入量  :約15万9000t
自給率  :7350/(7350+15万9000)≒4.4%
 

 

○パイナップルの関税(現行とTPP関税)
生食用:17%⇒11年目までに段階的に撤廃
缶詰用:一定量まで無関税、一定量を超えると33円/kg⇒11年目までに段階的に15%削減
 
○台湾による中国向けパイナップル輸出額(推定)
45000t×97%×1000(kg)×168円≒73億円
 
上記のとおり日本のパイナップル自給率はすでに極めて低く、一見保護の必要性は薄く感じられます。
しかしパイナップルの輸入先はフィリピンが94%を占めるなど圧倒的にTPP非加盟国が多く、唯一のTPP加盟国であるマレーシアの割合も0.57%にすぎないにも関わらず、TPP交渉においてパイナップルの関税は即時撤廃とはならず一定の保護が継続されることとなりました。特に缶詰用については11年後でも関税撤廃とはならず、15%削減されるのみとなっております。
一般的に生鮮食品は生食用の方が高価・高品質で、缶詰(加工)用の方が廉価・低品質であり、国産品は高価・高品質のものが多い傾向にあります。パイナップルにおいてもこれは同様ですが、TPP交渉においては生食用よりも缶詰用の方が関税撤廃・削減率が低い=保護が継続されるという逆転現象が起こっていることになります。
この逆転現象の理由ですが、パイナップルは生食用では精々カットされて出荷されるのみであるのに対し、缶詰にするためにはそれなりの規模の工場を、特に鮮度を落とさないために生産地の近くに建てる必要があります。つまり缶詰用パイナップルは、単に作物の生産だけでなく現地の加工工場がセットなので地場産業への影響がより大きく、保護の重要性もまた大きくなるということです。
また、輸入量についても、仮に台湾の中国向け輸出の1/3を日本が輸入するとなると、約1万5000t、国産品の約2倍もの量になります。フィリピンからの輸入量と比較すると1/10程度ですが、フィリピン産パイナップルの単価は90円/kg、台湾産パイナップルの単価は168円/kgと約1.9倍の差があり、台湾産パイナップルが競合するのはフィリピン産よりもむしろ国産品となる可能性が高いでしょう。
こうした経緯を踏まえると、パイナップルの輸入を安易に増加させるのは難しいところです。「ごく一部の地域の地場産業と国益を天秤にかければ後者が重要」という意見もあるかもしれませんが、パイナップル生産の「ごく一部の地域」には尖閣諸島を行政区に含む石垣市(生産量全国3位)が含まれており国益の面からも軽々に扱うことができない問題なのです。
 
これまで本ブログでは日本にとっていかに台湾加入がメリットであるかを紹介してきた一方で、台湾にとってのメリットを紹介してきませんでした。というのも、日本のメリットの方が明らかに大きいからです。今回の中国による輸入制限の記事を見つけた時は、『日本による輸入拡大』という台湾のTPP加入のメリットが発生することになるので「中国が隙を見せた」とさえ思ったのですが、よくよく調べてみると簡単に進められるものではないということが分かりました。
 
日本のパイナップルも他の果物と同様、ブランド化を進めようとしています。政府支援と合わせて、地場産業が疲弊せずに台湾のTPP加入を進められる方策を進められれば、と期待しています。