原油安とGoToトラベルで消費者物価指数10年ぶりの下げ幅/実質賃金は前年プラスの予測 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
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12月18日に11月の消費者物価指数が発表され、生鮮食品を除いた指数が前年同月比▲0.9%と2010年9月以来10年2ヶ月ぶりの下げ幅となりました。

主な指数は以下のとおりです。
・総合指数:▲0.9%
・生鮮食品を除いた指数(コアCPI):▲0.9%
・生鮮食品およびエネルギーを除いた指数(コアコアCPI):▲0.3%
・持ち家の帰属家賃を除いた指数:▲1.1%

消費者物価指数の総合指数は▲0.9と大きな下落になりましたが、インフレ・デフレの判断基準としては変動値の大きな生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIを用いるのが一般的であり、GoToトラベルの影響で引き下げられた宿泊料の寄与度▲0.42を除くとコアコアCPIはギリギリプラスとなるため、日本経済は低調ではあれど本格的なデフレに突入したと判断するのは早計かと思います。

(総務省統計局 令和2年11月『消費者物価指数』より)

なお2010年9月と言えば民主党政権の真っ只中の時期でコアコアCPIはなんと▲1.5%にもなり、しかもこれが単月だけではなく連月継続しているという恐るべきデフレ時代でした。

ところで代表的実質賃金ガーの中野剛史氏は未だに↓のようなことを言っているようです。
〈日本の「実質賃金」は1998年以降、減少傾向にある。それだけではない。安倍前政権によるいわゆる「アベノミクス」の下では、実質賃金はさらに急落し、低迷した。もっとも、安倍前政権もまた、「賃金上昇」を目指してきたはずだ。ところが、実質賃金は民主党政権時を下回る水準まで下落し、低迷したのである。〉
<引用終わり>

民主党政権時とは上記で示したような凄まじいデフレ期であり、実質賃金は常にプラスの下駄を履いていました。それを考慮せずに『実質賃金ガー』と喚くのは『デフレは素晴らしい!』と叫んでいるのと全くの同義と言えます。
また中野氏は同じ記事で「企業利潤を増やすうえで、一番手っ取り早い方法は人件費をカットすることであり、アベノミクスでそれが進んだ」とも主張していますが、安倍政権直前の2012年と直近の2019年の給与総額を比較すると約23.4%も増加しています。また2018年の時点ですでに給与総額は統計開始からの最大金額となっており、2019年はそれを更に更新した形です。
(令和元年 国税庁『民間給与実態統計調査』より)

企業の負担する人件費とは当然『一人あたりの平均給与』ではなく『全社員の給与総額』であり、企業の負担する人件費は2018年、2019年と過去最大にまで増加していますので、アベノミクスによって人件費がカットされたというのは全くの的外れなわけです。

11月の実質賃金が公表されるのは年明け1月7日の予定ですが、実質賃金を算出する際に使用される消費者物価指数は『帰属家賃を除いた指数』ですので▲1.1%です。つまり11月の実質賃金は+1.1%の下駄を履くことになりますので、コロナショック前の2月以来9ヶ月ぶりのプラスに転じることになるでしょう。
彼らはひたすら自民党政権を批判するために実質賃金ガーと喚いてきましたが、11月に原油安とGoToトラベルの影響で実質賃金が上昇したらどのように評価するのか、非常に興味深いです。