本日RCEP署名/意義と懸念点 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

本日とうとう一部の関税情報以外具体的な内容が公開されないまま、RCEPが署名されました。
先日も書きましたが、8月に『次回の11月会合で署名しましょう』と15ヵ国が約束したものを精々5日前からの反対活動で覆せるわけはありませんので、半ば諦めの境地でした。
仮に覆す可能性があったとしたら、8月の会合直後が最終リミットだったでしょう。

さて、あまり嘆いているだけでは生産的とは言えないので、詳細不明なりに内容について触れていきたいと思います。

<概要>
◯RCEP(アールセップ)とは,東アジア地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership)の略です。
◯交渉参加国:ASEAN10か国+6か国(日本,中国,韓国,オーストラリア,ニュージーランド,インド)
◯交渉分野(20分野):物品貿易,原産地規則,税関手続・貿易円滑化,衛生植物検疫措置(SPS),任意規格・強制規格・適合性評価手続(STRACAP),貿 易 救 済 , サ ー ビ ス 貿 易 , 金 融 サ ー ビ ス ,電気通信サービス,自由職業サービス,自然人の移動,投資,競 争 , 知 的 財 産 , 電 子 商 取 引 , 中 小 企 業 ,経済技術協力,政府調達,制度的事項,紛争解決等
というアジア・オセアニア圏の経済協定です。

<メリット>
当ブログはRCEP反対の立場ですが、何もメリットが無いわけではありません。
①貿易増加
RCEPは日本としては中国や韓国と初めて締結する貿易協定であり、工業製品を中心に輸出の増加が期待されます。韓国は割とどうでもいいのですが、やはり中国の購買力は侮れないため、日本の製造業にはプラスの影響が期待されます。
なお日本の工業製品は革製品などごく一部を除いて無関税ですので、この点においてはメリット>デメリットとなるでしょう。

②中国のASEANへの影響緩和
上に表示したRCEPの図をご覧いただくとわかりますが、日本にとって東南アジアは原油を運ぶシーレーンそのものであり、命綱と言っても過言ではありません。
そしてその東南アジアは過去記事[中国との関係を深化させる東南アジア諸国 親中国/脱中国の鍵は日本]にも書いたとおり、中国との貿易を増やしたり個別のFTAを締結したりするなど明らかに中国との関係性を深めつつあり、インドが抜けた後に日本まで抜けた状態でRCEPが発足すると、東南アジアと中国との蜜月が始まってしまう懸念があります。
中国の監視・牽制役が必要であるという視点で見れば、インドが抜けた後は日本がその役目を担うしかないとも言えるでしょう。比較的大国と言えるオーストラリアは、ファイブアイズにいながら結構コウモリだったりしますからね。

<懸念点>
①人の移動
上記のとおり、RCEPには自由職業サービス自然人の移動という項目が含まれています。過去のEPAを参考に『RCEPで対象になる人の移動は高度人材だけだ』という意見もありますが、「自由職業サービス」の詳細は附属書で定められるのが一般的であり、附属書の内容は当然協定ごとにバラバラに決められます。
つまりRCEPに単純労働者が含まれているかどうかは内容を確認するまで誰にも分からないのです。そして家族の帯同もどこまで認められるのか、これも同様です。
ちなみにTPPでは『自然人』ではなく『ビジネス関係者の短期移動』となっており、日本が交渉に参加する前の2012年2月にアメリカUSTRのカトラー代表補(当時)が「単純労働者は対象外」と明言していました。一方RCEPでは、署名された今日に至るまで誰も言及していません。

②政府調達
RCEPには他のEPAと同様に政府調達(≒公共事業への参入)が含まれていますので、懸念①と合わせて中国や他の発展途上国が大量に単純労働者を引き連れてダンピング価格で公共事業を受注する可能性があります。

③脱中国政策への逆行
コロナショックによって日本は様々な点で中国製品に依存していることが明らかになりました。日本としてはその状態を改善すべくサプライチェーンの組み替えに2400億円以上の予算を投じたわけですが、RCEPによって再び中国がサプライチェーンに戻ってくる恐れがあります。

④食料自給率への悪影響
これはほとんどのFTAに共通することですが、RCEPは中国を含めて発展途上国が多いため、特に安い食料品の輸入が増加して国産品にダメージを与える可能性が大きいと言えます。
TPPには有事の際に食料輸出を止めないという『食料安全保障規定』がありましたが、RCEPに同様の規定が組み込まれているかどうかは分かりません。

<交渉妥結のタイミング>
2019年11月の共同首脳声明にて『RCEP参加15か国が,全20章に関する条文ベースの交渉及び15か国の基本的に全ての市場アクセス上の課題への取組みを終了したことに留意し,2020年における署名のために15か国による法的精査を開始するよう指示した。』と宣言されています。最近細かな情報が報道されるようになっていましたが、条文ベースの交渉は一年前に終わっています。
もちろん個々の輸出関税については未決定の部分もあったかもしれませんが、一年前の時点で間違いなく大枠は決まっていたでしょう。

<総論>
メリットや懸念点(デメリット)について解説しましたが、極めて重大な事項が含まれているのに内容が分からない以上は、やはり反対のせざるを得ない協定と考えます。今となっては詮無いことですので、人の移動などがガチガチに限定されていることを祈るばかりです。