アベノミクスと実質賃金/デフレ脱却と名目賃金の増加 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

安倍首相が辞任し、アベノミクスの総括としてアベガーたちが嬉々として挙げるであろう実質賃金について解説したいと思います。

◯実質賃金=名目賃金/消費者物価指数
◯名目賃金=平均賃金

この二つを押さえておけば、あとは応用だけですね。
実質賃金が低下するとは下の①②のいずれか、もしくは両方が起こっているということです。

①平均賃金が低下する
②消費者物価指数が上昇する

それではまず安倍政権下の名目賃金を確認します。
<毎月勤労統計調査>
2012年:314,127円(月額)
2019年:322,612円
7年で+2.7%増加しています。

<民間給与実態統計調査>
2012年:4,080千円(年額)
2018年:4,407千円(2019年実績は9月発表予定)
こちらは6年で+8.0%増加しています。

安倍政権下において実質賃金が低下したとよく言われますが、名目賃金自体は上昇していたので②消費者物価指数の上昇が起こっていたということですね。実際に2012~2019年の消費者物価指数はトータルで+7.0%ですので、実質賃金は2.7ー7.0=▲4.3%となります。
早い話、デフレを脱却して物価が上昇したことが実質賃金下落の第一の要素だったというわけです。
実質賃金は毎月勤労統計調査の発表に基づきますが、参考程度に民主党政権の名目賃金の変動を確認すると、
2009年:315,294円
2012年:314,127円
3年で▲0.4%減少しています。しかしデフレで消費者物価指数が低下していたため、実質賃金ベースでは+0.7%の増加となりました。

また、名目賃金=平均賃金ですので、賃金の低い労働者が増えれば名目賃金は押し下げられます。低賃金労働者と言うと非正規・短時間労働者が思い浮かぶかもしれませんが、正規雇用労働者でも新人の頃は当然給与は低いものです。
上記の毎月勤労統計調査(厚生労働省)では平均賃金の変動は+2.7%、民間統計実態調査(国税庁)では+8.0%と大きな違いがありますが、両者の最大の違いは『民間統計実態調査は就労一年未満の労働者を除外する』という点です。国税庁による統計である民間統計実態調査は『1年間の給与』を調べるものですが、『10月に転職して月給100万円×3ヶ月となった労働者』と『1月から働いて月給25万円×12ヶ月となった労働者』を同じ扱いにするわけにはいきませんので、こうした内容になっています。
就労一年未満の労働者を除外する目的は上記の通りですが、結果的に新人の給与が除外されるため、新人が増加したことによる平均賃金の押し下げ、いわゆるニューカマー効果をある程度除いた賃金の動きを確認することができます。
民間統計実態調査はまだ2019年の結果が発表されていないので2018年までの内容で分析すると、名目賃金+8.0%に対し消費者物価指数は+6.4%なのでニューカマー効果を除くと実質賃金は+1.6%になります。

また、アベガーたちは非正規雇用の増加ばかりを強調しますが、2012年から2019年までで非正規雇用は+350万人、正規雇用も+150万人増加しています。正規雇用は2010年、2011年に若干増加したものの1998年から減少傾向であり、生産年齢人口が毎年50万人減少している日本においては奇跡的と言える増加でしょう。

デフレの脱却に加え、正規・非正規雇用合わせて500万人の就業者の増加が平均賃金を押し下げたことで、結果的に平均賃金の増加が消費者物価指数の増加を下回ったというのが安倍政権下における実質賃金の低下の実態です。
賃金の下方硬直性という言葉があるように賃金は景気の遅効指数ですので、特にデフレ脱却時においては実質賃金は低下傾向になります。

アベノミクス総括時に実質賃金ガーと言い出す評論家が出てくると思いますが、彼らは絶対に名目賃金に言及はしません。何故なら名目賃金・消費者物価指数ともに上昇しているため、アベノミクスによって賃金増加とデフレ脱却に成功したことが明白になってしまうからです。

実質賃金云々で批判する人が現れた場合、是非「名目賃金はどうだったの?」と聞いてみてください。