2019年度JA全農多収米 目標の倍/種子法廃止で実需重視へ | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

JA全農の2019年度事業実績が21日、明らかになりました。2019年度は生産基盤の確立などを掲げた3カ年計画の初年度に当たり、契約栽培の多収米の普及は目標としていた3万tを大きく上回り、約2倍の5.8万tに取扱量を伸ばしたとのことです。
すでに過去記事[種子法廃止後、多収米の栽培が増加]で紹介していたとおりですが、2018年度は約1万t、2019年度は約6万t(5.8万t)、2020年度は約8万tになる見通しとなっています。JA全農の2019年度目標は前年比約3倍というかなり高い目標でしたが、蓋を開けてみれば目標の約2倍という圧倒的な生産量となりました。
多収米の契約生産を進めた理由は『業務用など実需者ニーズを踏まえた契約生産を進めることで農家収益の安定につながるため』とのことですが、裏を返せば2018年までは実需者ニーズを踏まえずとも農家収益は安定していたということです。
2018年に実需者ニーズを踏まえる必要性が生じる変革が起こりました。それが種子法廃止です。
種子法が存続していると役所が指定したブランド品種(奨励品種)さえ栽培していれば補助金で経営が安定していたため、必ずしも売れる必要はありませんでした。そのため中食や外食が増えて業務用米のニーズが高まっても生産量がなかなか増えず、業務用米の需給ギャップは増大していくばかりでした。
需給ギャップの拡大から業務用米の価格が高騰し、中食や外食ニーズが米からパンなどの小麦製品に移ったことで日本人の米消費は減少してきました。今や1世帯当たり(2人以上の世帯)の米の支出額は2万4314円で、パン(3万554円)の8割程度にまで米の消費は落ち込んでいます。これが日本の食料自給率の低下を招いた一因となっているのは疑う余地の無いことでしょう。

種子法が廃止された結果、農家は収益を安定させるため、実需者ニーズを踏まえて業務用米などの多収米の生産へ切り替えを進めています。
そもそも種子法とは終戦後の混乱期に『悪貨が良貨を駆逐する』がごとく、品質を維持した作物が売れなくなることを防ぐための法律です。戦後の貧困時はともかく、平成以降に安価で低品質な品種が現れたところで高品質な品種が売れなくなるという事態は生じないでしょう。種子法の本来の目的は十分果たし終えたにもかかわらず、奨励品種を指定できる役所は自分達が開発した品種以外を奨励品種に指定せず(民間業者が開発した米は1つも奨励品種に指定されていません)いつしか目的が役所の利権維持にすり替わり、それが令和の直前まで継続してきました。
コロナショックにより今年は外食ニーズが激減してしまっていますが、長期的に見れば業務用米の拡大は食料自給率の向上のために不可欠であり、種子法廃止は遅すぎたぐらいです。
今後の米の増産および消費増に期待します。