日英FTA、6週間以内の合意必要─松浦首席交渉官 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
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日英FTA交渉を巡り、松浦博司首席交渉官は、6週間以内にまとめる必要があるとの考えを明らかにしたと、英紙フィナンシャル・タイムズが報じました。
英国のEU離脱の「移行期間」は12月末で終了するため、来年1月以降、日英間の自由貿易に空白期間が生じないようにするには秋の臨時国会でFTAを承認する必要があると指摘し,そのためには7月末までに交渉を終わらせる必要があると述べたとのことです。
イギリスが日本とのFTA交渉を開始すると発表したのが5月12日でしたから、交渉開始からわずか2ヶ月半での妥結を迫るという前代未聞のスケジュールです。かなり強烈なプレッシャーをかける発言ではありますが、実務的なことを考えるともっともな内容でもあります。
日欧EPAという土台があるので全く一からの交渉というわけではありませんが、通常の通商協定交渉ではあり得ない極めてタイトなスケジュールで進める必要があるため、現政権が通常国会を延長しなかった理由の一つはイギリスとの交渉に労力を割くためだったのではないかと思います。イギリスはTPPへの参加も前向きに検討しており、オーストラリアやニュージーランドとFTAを進めるなどTPPを前提にした動きも見せています。更には英企業のアストラゼネカが新型コロナウイルスに対するワクチンを急ピッチで進めており、ワクチン確保について日本も交渉していると報道されています。
日英FTA(日欧EPA)、TPP、コロナ対策と日本にとって極めて重要な政策にことごとくイギリスが絡んでおり、種苗法の改正など通常国会を延長して整備してほしかった法案もありますが、優先順位をつけるなら今はイギリスとの交渉が優先されるのはやむを得ない状況でしょう。

またイギリスはイギリスで、EUとの間に10%の関税が生じる場合、今後5年で400億ポンド(約5兆3千億円)の収入を失う英自動車工業会が試算を発表しており、EUとの協定妥結は何としても成し遂げなくてはなりません。過去記事[イギリスが日本やアメリカと通商交渉を開始]にも書きましたが、イギリスとEUとの交渉で弱い立場なのはイギリスであり、その力関係を少しでも改善させるためにはTPP加入を現実的なレベルまで引き上げなくてはなりません。TPP加入の鍵になるのは言うまでもなく日本であり、そういう意味ではイギリスの対EU交渉の鍵は日本であると言っても過言ではない状況になっています。

あまりにタイトなスケジュールなので本気で7月末までの合意を目指しているのかは分かりませんが、この6~7月が外交上非常に重要な期間であることに疑いの余地はありません。
過去記事[イギリスがTPPに加入した場合の日本への影響]にも書きましたが、TPPルールであれば日本の方が優位になりやすいので、日本としては急ぐイギリスに合わせるのではなく、実利をキッチリ掴むよう交渉してほしいところです。