コロナショック/売上微減・利益激減・設備投資増加<速報と確報の乖離のため削除> | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

四半期別法人企業統計調査(令和2年1~3月期)(速報※)が今月1日に発表されました。全体の売上高が▲3.5%と減少しており、コロナショックの影響による業績悪化が報じられていますが、やや的を外した論調が多いようです。
NHK時事通信も宿泊・飲食業の需要減少と共に『自動車の販売低迷』を挙げていますが、確かに自動車(輸送用機械)の経常利益は▲50.7%と激減したものの売上高自体は+4.8%と増加しており、販売自体は好調だったと言えるでしょう。
図①
売上高は伸びているのに何故利益が激減しているのか、今回発表された法人企業統計調査から日本経済に何が起こっているのかを解説していきます。

◯結論
今回は検討内容が多いので、先に結論を書いておきます。
日本経済は2020年1~3月において設備投資需要の先食いが行われたことで、法人の総売上高は▲3.5%と減少したものの、消費税の増税とコロナショックによる急減は相当程度食い止められました。
しかし4月以降はコロナショックの本格化と需要の先食いの影響で、非常に深刻な数字が発表されるものと予想されます。

◯売上高と営業利益
ザックリ説明すると、売上高から原材料や人件費などの費用と減価償却費を差し引いたものが営業利益になります。経常利益と営業利益はまた違うのですが、余計な要素が入らないよう本稿では営業利益を見ていきます。
冒頭で自動車(輸送用機械)が売上高が伸びているのに利益が激減していると書きましたが、これは実は輸送用機械に限りません。
企業規模ごとの売上高と営業利益を見ていくと
・資本金1億未満
 売上高▲11.7%
 営業利益▲12.9%
・資本金1億以上10億未満
 売上高▲3.8%
 営業利益▲32.7%
・資本金10億以上
 売上高+4.4%
 営業利益▲49.7%
図②
と、企業規模が大きくなるにつれて売上高の減少は小さくなり、逆に営業利益の減少が大きくなっています。資本金10億以上の企業にいたっては、自動車(輸送用機械)と同様に売上高が増加している一方で営業利益はほぼ半減しています。

◯損金計上を増やした大企業
売上高が大きくても利益が小さくなれば、支払う法人税は少なくなります。中小企業であれば前後の年度で赤字が発生すれば全額を繰越欠損金として損金に計上できるのですが、大企業だと半額しか損金に計上できません。
つまり大企業は翌年赤字になることが予測されるのであれば黒字を確保できる年に先に損金を多く計上して赤字の年の損金を少なくした方が、法人税の支払い総額が少なくなるのです。
図①を見ていただくと、売上高がプラスに寄与した上位業種に電気機械と輸送用機械ランクインしていますが、実はこの2つは定率法で減価償却が可能なのです。
詳しい説明は割愛しますが、定率法であれば設備投資をしたその年の減価償却費=損金計上が大きくなると理解していただければ問題ありません。(購入月から決算月までの月数で除算する必要はありますが)
例えば2020年2月に普通自動車(新車)を取得価額200万円で購入した場合、一年目の償却率は0.333(償却期間6年)ですので、2020年3月決算時の減価償却費は以下のようになります。
200万×0.333×1/6≒11万
法人税率が20%であれば2.2万円の節税になるわけですね。(定額法だと半額)
資本金10億円以上の企業全体の損金計上額(売上高ー営業利益)は前年比約10兆円も増加していますので、設備投資が全てではなく消耗品の大量購入なども推測されますが、企業規模が大きくなるほど損金計上できる支出を増やす傾向にあります。
そして損金計上できる割合の高い設備投資=定率法で償却できる電気機械や自動車への支出が増えた結果、両業種の売上高が増えたということですね。

◯売上不振の中小企業
体力のある大企業は先に支出を増やして節税をしていますが、資本金1億未満の中小企業は売上高自体が▲11.7%と非常に苦しい状況に追い込まれています。業種によって中小企業の定義が異なるので厳密な数字ではありませんが、中小企業の従業員数は全体の7割を占めていますから、今後日本の大半の従業員に厳しい雇用情勢が待ち構えています。

大企業も無関係ではなく、上述のとおり2020年度は多くの企業で赤字決算が見込まれるため需要の先食いが行われたわけですから、次の四半期以降は大企業にも同様の厳しい環境が襲いかかります。
ほんの2週間前に過去記事[2020年の設備投資に関する意識調査~2017年と同程度?]で2020年度の設備投資はリーマンショックほどの惨状にはならないと書きました。実際そこまで酷いものにはならないと思いますが、需要の先食いの影響もあって今年度の設備投資が相当減少するのは避けられないでしょう。