来年度国家予算について | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

2020年度の予算案が過去最大の102兆円超えとなりました。一般会計102兆6600億円 政府方針 2年連続で100兆円超 20年度予算案

GDP自体は毎年拡大しており、また社会保障費が自然増となるのは避けられないので予算案が年々拡大していくのは当然と言えば当然のことです。
そうした環境においても新規発行国債は減少させる方針であることから、いかに政府が歳出と歳入のバランスをとるべく腐心しているのかが伺えます。
増税の一方で経済対策として公共投資を増やす。一見矛盾した政策に見えますが、乗数効果を考慮すれば至極もっともな政策だということが分かります。下図に示されるように、公共投資における乗数効果は減税による乗数効果よりも高い効果が見込まれています。非常に単純化して説明するなら、1兆円減税したところでその一定割合は支出ではなく貯蓄に回ってしまうのに対し、公共投資はとりあえずは全額が支出に回るため、後者の方が支出増大=経済成長に寄与するということです。
結局はこの支出がゼネコン等の一部の企業の貯蓄に回ってしまうと経済循環には繋がらないのですが、一次的な効果としては減税よりも比較的大きな経済拡大が見込めると言えますので、政府としては増税&財政拡大という政策を選択したということですね。
ただし、単純に公共投資を増やしたところでそれがそのまま計算上の経済拡大にし繋がりとは限りません。例えば公共事業を増やすことで建築単価が上昇し、民間投資を減少させる要因となることがあり、今日的にはその傾向が強く表れていました。
しかしながら来年度以降の建築単価の予測を確認しますと、2015年以降高止まりを続けていたものの、関西圏は上昇貴重にある一方で首都圏を含む他の地域では低下が予測されています。(日建設計 コストマネジメントレポート)



建設業界における経済環境がこのようになっている以上、経済対策としての公共投資も一定の成果は見込めるでしょう。経済効果の見極めを行いつつ、災害対策等の国民の命を守る政策を実行することは政府の責務と言えます。
ただし今回の財政拡大の目玉はこれではなく、社会保障制度における高等教育の無償化・減免措置にあると考えられます。冒頭に日本は高齢化による社会保障費の増大が割けられないと書きましたが、来年度の社会保障費が約1.7兆円増加している一方で高齢化に伴う費用の拡大は4100億円程度に抑えられており、幼児教育・保育無償化の通年費用や低所得世帯に対する高校・大学の授業料などの減免措置が大きなウェイトを占めています。
今日の日本では、親の高学歴→親の高収入→子供への高等教育→子供の高学歴というサイクルが見られ、格差の固定化が問題視されるようになっております。個人的には高騰している国公立大学の学費を減額して優秀な学生が国公立大学へ進学するインセンティブを増加させろと思わなくもないですが、固定化され始めている教育格差を是正するためにはこのくらいの抜本的な対策が必要なのかもしれません。
こうして国民間の格差のサイクルを解消し、経済を刺激しつつ財政健全化を進めようとする苦渋の決断が来年度の国家予算から見てとることができます。

2018年度の経済成長率はギリギリでプラスを維持する水準に終わる可能性が高くなっており、2019年度も各種経済指標がリセッション(景気後退)を示しています。2020年度以降は着実かつ堅実な経済成長が実現できるよう、官民ともに取り組んでいく必要があるでしょう。