日本の農業は保護されているのか | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

日本の農業は国際的に見て保護されている方なのか、両極端な意見をよく目にします。意見を見る限り、『保護されている』派はイメージのみで、『保護されていない』派は都合のいいデータのみで語っているように思います。

国際的な農業保護指標としてはPSEやAMSという指標がよく使われます。どちらも『農業をサポートする政策措置から生じる、消費者及び納税者から農業生産者への年移転金額』で、[国内価格と国際市場の価格差]+[財政的保護]の合計額で算出されます。
OECDではPSEが、WTOではAMSが活用されることが多くなっておりますが、両者の大雑把な違いとしては[国内価格]の価格が行政価格(政府指定価格)でなく市場価格であればAMSでは保護と見なさないという点です。AMSでは事実上関税等による価格の上昇が計上されないため、日本や韓国などの一部の国がWTOの場で「自分達は農業保護を行っていない」と主張するために無理繰り作り出した指標という面が強くなっています。
実際に日本はウルグアイラウンドへの対応として米の政府買入価格(生産者米価)を廃止したことで、778%の関税をかけている米の内外価格差を農業保護指標(AMS)から外すことに成功しました。

AMSによる国際比較のデータが見つからなかったという事情もありますが、流石に778%もの関税をかけながら『保護の対象外』とするのは無理があるので、PSEに基づく日本の農業保護率を確認してみます。
やや古いデータですが、2011年には日本の農業保護率はEUの2.5倍、アメリカの6倍となっており、日本と韓国が突出して高くなっていることがわかります。

『日本の農業は保護されていない』と主張する方々はよく関税率や農業所得に占める補助金の割合を挙げますが、これらは農業保護の指標として適切とは言い難いものです。
例えば関税率は、品目ごとの輸入量で関税率を加重平均したものです。日本では前述の通り米に778%の関税がかかっていますが、778%の関税をかけた状態で輸入される米などありませんので、事実上米は平均関税率から除かれていることになります。仮に米の関税を50%程度まで大幅に引き下げて輸入量が増加すれば、日本の平均関税率は大きく引き上げられるでしょう。
農業所得に占める補助金の割合も『保護の一部の形』だけであり、関税や輸入規制による価格の吊り上げが考慮されていません。
こうした関税や補助金をまとめて農業保護の指標として組み入れたのがPSEやAMSであり、総合的な農業保護を比較する際にはこちらの指標の方が適切と言えるでしょう。
つい先日記事で取り上げた鈴木教授も以前PSEによる指標が実態を反映していないと批判していましたが、最近はその主張こそ非現実的だと宗旨変えしたようですしね(笑)

総合的に見れば、やはり日本の農業は世界的にも厚く保護されていると判断するべきでしょう。
また日本においては関税は逆進性の極めて高い税金ですので、農業を保護するのであれば関税を引き下げて補助金を増額するのが望ましい形です。もちろん関税の引き下げはFTAやEPAにおける武器ですので、この武器を活用してFTAやEPAで有利な条件を獲得しつつ農業保護の効率化を進めることが、戦略的には最も国益および日本国民の利益に適う方策と言えます。