同一労働同一賃金と不本意非正規雇用 | 上下左右

上下左右

台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

政府の働き方改革関連法の大きな柱である同一労働同一賃金の規定を盛り込んだ「パートタイム・有期雇用労働法」が2020年4月に施行されます(中小企業は21年4月)。
同一労働同一賃金の目的は言うまでもなく非正規労働者の待遇改善にあり、ガイドラインでは、基本給、賞与のほか、役職手当、特殊作業手当、特殊勤務手当、時間外労働手当の割増率、通勤手当・出張旅費、単身赴任手当、地域手当、福利厚生などについて判断基準が示されています。

この法律が施行されれば非正規労働者の待遇改善が図られることになりますが、どのような影響があるでしょうか。

まずは現在の正規雇用と非正規雇用の状況を確認しましょう。
【雇用者数】
非正規雇用者は平成が始まる前から増加傾向にあります。
正規雇用者は平成6年頃から減少傾向にありましたが、平成27年から増加基調に転換しています。


【人手不足】
正規雇用・非正規雇用ともにリーマンショック後の2009年(平成21年)から人手不足と回答する企業の割合が増えています。
意外なことに、正規雇用の人手不足が非正規雇用の人手不足を下回ったことはありません。企業側もできれば正社員を雇いたいものの、現実的には非正規雇用でしのがざるを得ない状況が続いていたということでしょうか。
なお最近の雇用情勢では半分以上の企業が正規雇用の人手が足りていないと回答しており、非正規雇用で誤魔化しが効かないほど正規雇用の人手不足が深刻化しているということが見てとれます。

【不本意非正規雇用】
企業は深刻な正社員不足に対応するべく正規雇用を増やしていますが、一方で非正規雇用も増加を続けており正規雇用の人手不足解消には至っていません。
非正規雇用という言葉を聞くと「正規雇用を希望しているものの、やむ無く非正規の職に就いている」人を想像しがちですが、非正規労働者のうちそれに該当する方は少数派で、しかも年々減少しており今や全体の1/8程度となっています。
逆に言えば7/8の非正規労働者は自ら望んで非正規雇用で働いているということですね。

では同一労働同一賃金となり、非正規雇用の待遇改善が図られた場合の影響を考えてみましょう。

企業側は非正規労働者の待遇を改善させなければならないため、非正規雇用を増やすメリットが薄れます。その一方で正規雇用者はまだまだ足りない情勢ですので、当然非正規雇用を減らして正規雇用を増やすようにシフトしていくことが予想されます。
それは一見好ましいことのように見えますが、7/8の非正規労働者は非正規雇用の働き方を望んでおり「今は正社員は募集してるけど非正規社員は募集してないんだ。」となった場合、労働時間の都合等で正規雇用に就けない方は就職できなくなる可能性があります。

ハッキリ言えば、今の雇用情勢において同一労働同一賃金を求める必要性は極めて乏しいと思います。正社員と同じ待遇を求めるのであれば正社員になればいいのです。今はそれができる環境にあります。

なぜ今の雇用情勢で同一労働同一賃金が盛り込まれたのでしょうか。そもそも同一労働同一賃金は旧民主党がマニフェストに掲げるなど以前から一つの主張として存在していたものです。
ここからは私の想像でしかないのですが、正規雇用を増やすための財界への根回しが完了するまでにここまでの時間がかかってしまったのではないかと考えています。
現政権は政権交代から順調に雇用者を増やしてきましたが、平成27年に反転するまでは正規雇用は減少傾向のままでしたので、政権としては正規雇用を増やそうと画策したでしょう。そこでアベノミクスと平行して非正規雇用の待遇改善を行うことで正規雇用の増加を図ったものの、根回しに時間がかかりすぎて的外れのタイミングになってしまったということです。

今更言っても詮無いことですし私の想像が外れている可能性も大いにありますが、同一労働同一賃金の導入による労働者の減少が日本経済の縮小に繋がらないことを祈るばかりです。