種子法が守ったもの | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

種子法が廃止されることにより日本の農業を守る盾が一つ無くなったと言わんばかりの風潮が一時ありましたが、種子法が守ってきたものとは一体何でしょうか?
<自給率>
種子法の対象になっていた作物は米、小麦、大麦、はだか麦、大豆の5種類ですが、その自給率は下記のとおりです。
米:97%
小麦:12%
大麦・はだか麦:9%
大豆:7%
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-14.pdf
何と米以外の作物の自給率は10%前後しかありません。種子法対象外の野菜等は9割が輸入に頼っていると言われますが、米以外の種子法対象の作物は種子どころか作物そのものを9割輸入に頼っている状態です。種子だけ外国で生産して日本で栽培した作物と、種子だけでなく栽培も日本の規制の及ばない外国で行われた作物のどちらの方が危険でしょうか?
米にしても778%の関税で輸入が規制されているから高い自給率が保たれているだけで、その消費量は年々減少しています。
<補助金>
種子法が補助金の法的根拠になっているという説がありましたが、それは平成9年までの話です。平成10年には種子に対する補助金も一般財源化され、種子法と補助金を結びつけるものは無くなりました。むしろ種子法廃止の附帯決議に補助金が盛り込まれることで、再び種子法と補助金を結びつけるものは法的根拠が復活したと言えるでしょう。
<奨励品種>
種子法は作物の生産も補助金も守ってきませんでした。では何を守ってきたのでしょうか?

一言で言えば『利権』です。

種子法では各都道府県は優良であると認定した品種の普及に努めるべしと定められていました。
(種子法第6条 都道府県は、指定種子生産者又は指定種子生産者に主要農作物の種子の生産を委託した者に対し、主要農作物の優良な種子の生産及び普及のために必要な勧告、助言及び指導を行わなければならない。)
そのため都道府県は優良な品種を奨励品種と定め、普及を進めてきました。ではその『奨励品種』の開発者は誰でしょうか?ほとんどが『奨励品種』を認定する都道府県です。米に至っては民間が開発した品種は一つも奨励品種に認定されていません。
つまり役所が自分達で開発した品種を自分達で『奨励品種』と認定し、普及に努めてきたわけです。こんなマッチポンプな市場には当然民間企業は参入せず、競争原理が働かなくなったために自給率および消費量は減少してきました。
そんな環境を打破するために種子法が廃止されたわけですが、それでもまだ利権を確保するべく種子法があったときと同じ仕組みを維持しようとしている自治体があるようです。
種子法が無くなることによって外資をはじめとした民間企業に農業が乗っ取られるという論者がいますが、そうなれば今まで消費者が選択の余地なく競争力の低い(高い、不味い)品種を食べさせられ続けてきたというだけのことです。役所の利権のためだけに。
本当に役所が開発した品種の競争力が高い(安い、旨い)のであれば何も問題は起こらないはずなのです。