マッチングアプリでは、人は数秒で「あり」「なし」に分けられる。
年齢、年収、身長、学歴、職業、顔。
情報はきれいに並んでいる。
年収600万円と800万円は比較できるし、身長170センチと180センチも比較できる。
だが、結婚してから毎日のように直面することは、プロフィールにはほとんど書いていない。
例えば、いつもの火曜日の夜だ。
21時に帰宅する。
二人とも疲れている。
シンクには朝のマグカップと夕食のフライパン。
洗濯機には、干されるのを待っている洗濯物。
冷蔵庫には昨日の野菜炒めが半分残っている。
風呂に入れば風呂洗いもある。
このような毎日を、この人と何百回、何千回と過ごせるだろうか。
婚活では、意外とこの視点が抜け落ちる。
年収欄には、洗い物のことは書いていない
もちろん条件は大切だ。
結婚するなら、収入も仕事も住む場所も無視できない。
容姿だって大切である。
好きでもない人と無理に結婚する必要はない。
ただ、結婚生活では別の能力も必要になる。
火曜21時。
シンクを見て、
「俺、家事はちゃんと手伝うタイプだから」
と言う人より、何も言わずにスポンジを取る人のほうが頼もしいかもしれない。
そもそも「家事を手伝います」という言葉には、少しだけ注意したほうがいい。
誰の仕事を手伝っているのだろう。
二人の家なのだから、本来は二人の仕事である。
もちろん言葉尻だけで人を判断する必要はない。
ただ、こういう小さなところに、結婚後の生活観は意外と出る。
スーパーのカゴを見ると、価値観が分かる
デートなら、おしゃれなレストランへ行けばいい。デート代をおごってくれる男性は頼もしいかもしれない。
だが結婚すると、行く回数が圧倒的に多いのはスーパーである。
土曜日の夕方。
スーパーのカゴには、
半額シールの豚肉。
特売の卵。
子どもが欲しがったお菓子。
そして、少し高い刺身。
「刺身、高くない?」
「でも今日は食べたいじゃん」
こんな会話を何度もする。
毎回、最安値を選ばなくてもいい。
逆に毎回、好きなものを全部買えるわけでもない。
住宅ローンもある。
教育費もある。
老後資金もある。
旅行にも行きたい。
たまには美味しいものも食べたい。
だから結婚生活では、
「節約できる人」
より、
何にはお金を使い、何を我慢するかを一緒に決められる人
のほうが大切なのかもしれない。そして、何にお金を使うかの価値観の一致も必要となる。
独身時代の自由を、二人とも少しずつ手放す
独身生活なら、かなり自由である。
金曜の夜に飲みに行ってもいい。
土曜日を丸一日ゲームに使ってもいい。
突然旅行へ行ってもいい。
ボーナスで欲しかった時計を買ってもいい。
しかし結婚すると、自分のお金と時間が、自分だけのものではなくなる部分が出てくる。
特に子どもが生まれると顕著だ。
日曜日の朝8時。
子どもが起きる。
自分は昨夜遅くまで飲んでいた。
配偶者も疲れている。
ここで、
「俺、昨日遅かったから」
と布団に戻るのか。
「今日は俺が連れていくよ」
と子どもと公園へ行くのか。
こういう一回一回は、小さなことである。
だが結婚生活は、その小さな選択の集合体だ。
問題なのは、遊ぶことではない。
飲みに行くことでもない。
ゲームをすることでもない。
趣味を持つことでもない。
自分だけが独身時代を続けようとすることである。
夫だけ毎週飲みに行き、妻は毎週子どもを見る。
妻だけ自由に買い物をし、夫だけ将来のために節約する。
どちらでも長続きしにくい。
自由をなくすのではない。
二人とも自由を持つ。
ただし、家族を回す責任も二人で持つ。
それくらいがちょうどいい。
「一人の時間を大切にしたい」も、中身を聞いてみる
婚活プロフィールでよく見る言葉がある。
「お互いに一人の時間も大切にしたいです」
私も、この考え方自体には賛成である。
四六時中一緒にいる必要などない。
ただし、この一文だけでは何も分からない。
月に一度、一人でカフェへ行きたいのか。
毎週土日を全部趣味に使いたいのか。
そこにはかなり差がある。
同じように、
「家庭を大切にします」
「子育てには協力したいです」
「家事もやります」
も、それだけでは分からない。
誰でもプロフィールには良いことを書く。
だから婚活では、少し具体的な生活の話をしたほうが面白い。
「休日って何時くらいに起きる?」
「旅行にはお金を使いたい?」
「料理する?」
「一人で過ごす休日って好き?」
「子どもができても仕事は続けたい?」
面接のように聞く必要はない。
雑談の中で十分である。
答えそのものより、生活を具体的に考えている人なのかが見えてくる。
価値観が同じ人より、違ったときに話せる人
婚活では「価値観が合う人」という言葉もよく使われる。
だが、何十年も価値観が完全に一致する夫婦など、ほとんどいないだろう。
片方は旅行が好き。
片方は家が好き。
片方は貯金したい。
片方は今を楽しみたい。
片方は部屋が少し散らかっていても平気。
片方は床に靴下が落ちているだけで気になる。
最初から全部一致する相手を探していたら、かなり大変である。
それよりも、
「私はこうしたい」
「俺はこうしたい」
「じゃあ、今回はこうしよう」
と話し合える関係のほうが現実的だ。
結婚生活では、意見が合う能力より、
意見が合わないときの処理能力
のほうが重要になる場面が多い。
家族のために節約する。でも、節約しすぎない
結婚すると、自分のためだけにお金を使えなくなる。
これはある程度仕方がない。
教育費。
住宅費。
保険。
老後資金。
子どもの習い事。
将来を考えれば、節約も必要になる。
だが、何でも削ればいいわけでもない。
家族旅行まで削る。
外食も全部やめる。
夫婦で出かけることもなくなる。
コーヒー一杯まで「無駄」と考える。
そうなると、何のためにお金を残しているのか分からなくなる。
将来の家族のために貯金する。
今日の家族のために使う。
その両方が必要である。
火曜日にスーパーで少し高いプリンを二つ買うことだって、長い結婚生活では意外と大切なのかもしれない。
結婚生活は、デートの延長ではない
婚活中は、非日常が多い。
休日に待ち合わせる。
少しきれいな服を着る。
レストランへ行く。
映画を見る。
楽しい話をする。
しかし結婚生活の大部分は、そんな日ではない。
普通の火曜日である。
眠い朝。
雨の日。
残業した夜。
給料日前。
子どもが熱を出した日。
冷蔵庫にほとんど何もない日。
仕事で嫌なことがあった日。
そういう日のほうが圧倒的に多い。
だから、婚活で相手を見るとき、
「この人とデートしたいか」
だけではなく、
「この人と普通の火曜日を過ごしたいか」
と考えてみる。
この問いは、案外悪くない。
そして、火曜日は何千回も来る
結婚生活が30年続けば、火曜日だけでも1500回以上ある。
その間には色々ある。
仕事がうまくいかないこともある。
収入が減ることもある。
親の介護が始まることもある。
子育てで余裕をなくすこともある。
夫婦仲が悪くなることだってある。
そんなとき、
「昔と違う」
と言って終わるのか。口論したり、怒鳴ったりするのか。
それとも、
もう一度相手の話を聞くのか。
もう一度、自分の時間の使い方を見直すのか。
もう一度、家事や育児の分担を考えるのか。
場合によっては、
もう一度プロポーズするくらいの気持ちで、関係を作り直す。
結婚は、一度「選ばれた」ら終了するゲームではない。
何年たっても、
この人と一緒にいたい。
この人にも、自分と一緒にいたいと思ってほしい。
そのために、少しずつ行動する。
たぶん、それが長い結婚生活なのだと思う。
マッチングアプリでは、人は数秒でスワイプされる。一瞬の出来事だ。
だが結婚生活で本当に長く向き合うのは、
年収欄でも、
身長欄でも、
プロフィール写真でもない。
火曜日21時のシンクと、
スーパーの買い物カゴと、
疲れている相手の顔である。
理想を捨てる必要はない。
条件を下げる必要もない。
ただ、条件表の最後にもう一つだけ加えてみてもいい。
「この人と、普通の火曜日を一緒に過ごしたいか」
私は、婚活ではかなり大切な条件だと思っている。