大学に入学したばかりの18歳が、こんなことを考える。
「就活では、どんなガクチカが強いんだろう」
ガクチカとは、「学生時代に力を入れたこと」。就職活動のエントリーシートや面接で、非常によく聞かれる質問だ。
すると、よくこんな答えが出てくる。
体育会。
学生団体。
NPO。
長期インターン。
留学。
アルバイトリーダー。
しかし私は、この問いの立て方そのものが逆ではないかと思う。
まだ大学に入ったばかりなのに、
「どこに所属すれば就活に強いか」
から考えているからだ。
本来は、そうではない。
所属から考えるな。テーマから考えよう。
大学4年間で何に興味を持ち、何をやってみたいのか。
何が得意なのか。
どんな問題なら、自分で少し変えてみたいと思えるのか。
所属先は、その後で決まる。
強いガクチカは「肩書」ではなく「小さなプロジェクト」
私が就職活動をした2000年代半ばは、「チームで何かを成し遂げた」という経験が今以上に分かりやすく評価されていた記憶がある。
サークルの副代表。
体育会の主将。
ゼミ長。
アルバイトリーダー。
学園祭実行委員。
もちろん、こうした経験が悪いわけではない。
代表や主将として大きな責任を負った経験は、今でも価値がある。
ただし、大切なのは「代表」という役割名ではない。
その立場で、どの問題を引き受けたのか。
ここであるサークルを考えてみよう。
80人の学生が所属している。
一人は副代表だった。
面接でこう話す。
「メンバー同士の仲が良くなるように心がけました」
もう一人には、特に役職がなかった。
しかし、新入生が半年以内に辞めてしまうことに気づいた。
退会した学生に話を聞くと、経験者中心の練習についていけないことが一因らしい。
そこで初心者向け練習会を提案した。
経験者にも協力を頼み、参加者アンケートを取りながら内容を修正した。
その結果、新入生の継続率が上がった。
後者の方が、仕事での再現性が見えやすい。
なぜなら、
問題を発見した。
原因を調べた。
仮説を立てた。
施策を考えた。
周囲と調整した。
実行した。
結果を見て修正した。
という一連のプロセスが見えるからだ。
これは、企業で行う仕事とかなり似ている。
だから私は、強いガクチカをこう定義したい。
強いガクチカとは、学生時代に経験した「小さなプロジェクト」である。
目指すべきは「リーダー」より「小さな責任者」
大学生というと、リーダー経験が重視されると思われがちだ。
しかし、全員がサークル代表になる必要はない。
むしろ重要なのは、
自分が責任を持つ範囲を一つ持つことだ。
サークル全体の代表ではない。
しかし、新歓だけは自分が責任を持った。
NPO全体を運営しているわけではない。
しかし、SNS広報だけは自分が改善した。
アルバイトリーダーではない。
しかし、食品ロス削減だけは自分が提案した。
研究室の中心人物ではない。
しかし、自分の実験テーマだけは徹底的に追究した。
これでいい。
むしろ、会社員の仕事に近い。
22歳の新入社員が、いきなり100人の組織を率いることはほとんどない。平社員から始まるのである。
しかし、
「この資料はあなたに任せる」
「この顧客を担当してほしい」
「この業務を改善してほしい」
と言われることはある。
そこで必要になるのは、カリスマ的なリーダーシップではない。
自分の担当領域を理解する。
問題に気づく。
考える。
必要な人に相談する。
最後までやり切る。
だから大学時代に目指すべきなのは、
大きな組織のリーダーになることではなく、小さな問題の責任者になること
なのかもしれない。
「何に所属するか」の前に「自分は何が好きか」
では、大学1年生は何から始めればいいのだろう。
最初から「強いガクチカ」を完成させる必要はない。
まずは、自分が何に反応する人間なのかを探せばいい。
例えば、人と関わることが好きな学生。
イベントを企画したり、誰かと誰かをつないだりするのが楽しい。
そんな学生なら、サークルや学生団体が活動の場になるかもしれない。
しかし、
「サークルに入ること」
が目的ではない。
例えば、
「新入生が馴染みやすい仕組みを作ってみたい」
「イベントにもっと人を集めたい」
というテーマを見つける。
その問題に取り組める場所が、たまたまサークルだった。
これが自然な順番だ。
数字が好きなら、数字で現実を変えてみる
人前で話すのはそれほど得意ではない。
しかし数字を見るのが好き。
Excelをいじるのが楽しい。
物事の原因を考えるのが好き。
そんな学生が、無理に学生団体の代表を目指す必要はない。
例えば飲食店でアルバイトをする。
すると、ある時間帯だけ食品ロスが多いことに気づく。
曜日別、時間帯別、商品別に記録を取ってみる。
店長に発注量の変更を提案する。
結果として廃棄が減った。
これも立派なガクチカになる。
アルバイトだから弱いのではない。
何をしたかではなく、何を変えたか。
そこが重要だ。
ものづくりが好きなら、「作った」で終わらせない
PCやゲーム、電子工作が好き。
プログラミングをやってみたい。
そんな学生なら、何か一つ、人に使ってもらえるものを作ってみる。
例えば、所属するグループの出欠管理が面倒だった。
簡単なWebアプリを作ってみた。
最初は使いにくいと言われた。
そこで直した。
20人に使ってもらった。
また意見を聞いた。
さらに改善した。
すると、
「アプリを作りました」
という話が、
「利用者の問題を見つけ、サービスを改善しました」
という話に変わる。
生成AIによって、何かを「作る」こと自体のハードルは下がっている。
だからこそ、これからは、
何を作ったかより、誰のどんな問題を解いたか
の方が重要になる。
NPOに入りたいのではなく、解きたい問題がある
教育格差。
地方創生。
環境。
福祉。
外国人支援。
こうした問題に関心を持つ学生もいるだろう。
その場合も、
「NPOは就活に強そうだから入ろう」
ではない。
例えば、
「外国人の子どもが学校からの情報を理解しにくい」
という問題に関心を持ったとする。
そこから、その問題に取り組んでいるNPOを探してもいい。
自治体の活動に参加してもいい。
大学のプロジェクトでもいい。
小さく自分で始めてもいい。
順番は、
NPOに入る → 問題を探す
ではない。
問題に興味を持つ → その問題に触れられる場所を探す
である。
一人で取り組む学生も、それでいい
大学生活というと、「仲間と何かを成し遂げる」ことが理想のように語られることがある。
しかし、全員がそうである必要はない。
一人で集中するのが好きな学生もいる。
文章を書く。
絵を描く。
研究する。
プログラムを書く。
動画を作る。
資格を勉強する。
こうした活動も十分価値がある。
ただし、一つだけ工夫すると強くなる。
外の世界と接続することだ。
ブログなら、ただ100記事を書くのではない。
読者の反応を見る。
テーマを変えてみる。
数字を分析する。
質問をもらったら次の記事に反映する。
個人活動でも、他者との接点ができた瞬間、
「趣味」
から
「小さなプロジェクト」
へ変わっていく。
18歳から22歳まで、4年間をどう使うか
では、大学4年間をどう使えばよいのか。
私は、かなりシンプルに考えている。
1年生――好きなものを探す
最初から一つに絞らなくていい。
サークル。
アルバイト。
研究。
プログラミング。
ボランティア。
趣味。
いくつか試してみる。
大切なのは、
「何をすると時間を忘れるのか」
「何を見ると違和感を覚えるのか」
を知ることだ。
大学1年生は、ガクチカを作る年ではない。
テーマを探す年だ。
2年生――違和感を見つける
活動を続けていると、少しずつ問題が見えてくる。
なぜ新入生が辞めるのか。
なぜイベントに人が来ないのか。
なぜこの作業は毎回2時間かかるのか。
なぜこの商品だけ廃棄が多いのか。
「なんか変だな」
と思ったことを、そのままにしない。
記録してみる。
人に聞いてみる。
数字を集めてみる。
問題を見つける力を育てる年だ。
3年生――一つの問題の責任者になる
ここで初めて、一つのテーマを引き受ける。
全部を変える必要はない。
小さくていい。
「今年の新歓は自分が改善する」
「この業務の効率化は自分がやる」
「この研究テーマだけは最後まで追う」
と決める。
そして、
仮説を立てる。
人を巻き込む。
実行する。
失敗する。
修正する。
成果を出す。
小さな責任者になる年だ。
4年生――自分の経験を言葉にする
最後にやるのは、経験の整理である。
何に興味を持ったのか。
なぜ行動したのか。
どんな問題を見つけたのか。
何を考えたのか。
何を実行したのか。
誰と協力したのか。
何がうまくいかなかったのか。
何を変えたのか。
その結果、何が変わったのか。
この順番で振り返る。
ここまで来れば、ガクチカは無理に「作る」必要がない。
4年間そのものが、語れるストーリーになっている。
ガクチカの設計図は、実はとても単純だ
4年間を一枚にすると、こうなる。
1年生
興味を探す
↓
2年生
問題を見つける
↓
3年生
一つの問題を引き受ける
↓
4年生
経験を言語化する
さらに、その中の一つの経験だけを取り出せば、
興味
↓
行動
↓
問題発見
↓
仮説
↓
責任を持つ
↓
実行
↓
協働
↓
改善
↓
結果
となる。
これが、強いガクチカの基本形だ。
「すごい経験」を探さなくていい
就活を意識すると、
「他人よりすごいことをしなければ」
と思ってしまう。
海外留学。
起業。
全国大会。
有名企業のインターン。
もちろん、それらは素晴らしい経験だ。
しかし、必要条件ではない。
普通の大学生活にも、問題は無数にある。
サークルの新入生が辞める。
学園祭の行列が長い。
アルバイト先の食品ロスが多い。
履修情報が分かりにくい。
ゼミの資料共有が面倒。
NPOのボランティアが集まらない。
地域イベントに若者が来ない。
その中から一つだけ、
「これ、自分で何とかできないかな」
と思うものを拾えばいい。
そして、自分の手で少しだけ現実を変えてみる。
それがガクチカの原点だ。
サークル名より、「何を変えたか」
高校を卒業し、大学に入った18歳に、
「どのサークルに入れば就活に強いですか」
と聞かれたら、こう答えたい。
まず、サークルを選ぶ前に、自分のテーマを探してほしい。
人なのか。
数字なのか。
技術なのか。
研究なのか。
商売なのか。
社会課題なのか。
創作なのか。
そして、小さく行動してみる。
行動すれば、必ず何かうまくいかないことが見えてくる。
そこから一つ、
「これは自分が何とかしてみたい」
と思える問題を選ぶ。
その問題の小さな責任者になればいい。
就職活動のために、大学生活を作る必要はない。
好きなことに取り組む。
問題に気づく。
一つだけ責任を持つ。
誰かと関わる。
試行錯誤する。
少しだけ現実を変える。
その4年間なら、結果として就職活動でも語れる。
そして、就活が終わった後にも、
自分で問題を見つけ、自分の担当として解決する力が残る。
所属から考えるな。テーマから考えよう。
大学4年間で探すべきなのは、
履歴書に書ける立派な肩書ではない。
自分が責任を持って変えたいと思える、小さな問題である。
次回は、「人が好き」「数字が好き」「技術が好き」「一人で深く取り組むのが好き」など、大学入学時点のタイプ別に、4年間をどう設計すればよいかを考えてみたい。