「中学までは数学が得意だったのに、高校に入ったら急に分からなくなった」

高校生本人からも、保護者からも、よく聞く言葉である。

高1の二次関数で成績が急落した。

高2になって三角関数が意味不明になった。

微分になると、公式は覚えられるのにグラフが描けない。

数列の漸化式になると、何をやっているのか分からなくなる。

こうなると、

「今やっている単元をもっと練習しよう」

と考えがちである。

しかし、中学校教師、高校教師、予備校講師、数学教育研究を調べていくと、もう少し複雑な構造が見えてくる。

高2で数学につまずいたからといって、原因が高2にあるとは限らない。

場合によっては、高1どころか、中3、中2までさかのぼる必要がある。

この記事の結論を30秒で

高校数学でつまずいたら、「今の単元」をひたすら繰り返すだけでは十分ではない。

重要なのは、

「この単元は、どの知識の上に建っているのか」

を逆向きにたどることである。

例えば、

中2 一次関数
→ 中3 y = ax²
→ 高1 二次関数
→ 場合分け
→ 高2 指数・対数・三角関数
→ 微分・積分

は一本の長いルートになっている。

高2の微分でつまずいていても、本当の原因が中3の関数にあることさえある。

数学では、

「つまずいた学年」と「原因がある学年」は同じとは限らない。

これがこの記事の中心テーマである。

数学は「積み木」である

数学は積み木に似ている。

下の積み木が少し傾いていても、低いうちは立っていられる。

ところが上に積み重ねていくと、あるところで突然崩れる。

数学で「突然できなくなった」ように見える現象も同じである。

実際には以前から小さな理解不足があった。

しかし問題が単純なうちは、それでも何とか解けていた。

高校数学になり、複数の知識を同時に使うようになる。

そこで初めて崩れるのである。

中学校教師が警戒する「関数」という壁

まず中学校である。

東京都中学校数学教育研究会の関数委員会は、中学校数学の中でも、関数を苦手とする生徒が多い領域として扱っている。

教師向け専門誌でも、

「表・式・グラフを関連付ける」

「3年間を通して一貫して関数を学ぶ」

といったテーマが繰り返し扱われている。

例えば中3では、

y = ax²

を学習する。

問題集だけを解いていると、

「aを求める問題」

「変化の割合を求める問題」

「グラフを描く問題」

は別々の問題に見える。

しかし、本来はすべて同じ関数を違う角度から見ている。

xが変わる。

それに伴ってyが変わる。

その関係を式で表せる。

表でも表せる。

グラフでも表せる。

この、

「全部、同じものを表している」

という感覚が重要なのである。

中3の y = ax² についても、教師向け資料では、

「変化の割合が一定ではないことを理解できない」

「具体的な現象から二乗に比例する関係を見つけられない」

「グラフをイメージしながら変域を考えられない」

といったつまずきが整理されている。

ここに、高校数学への伏線がある。

高校数学、最初の巨大な壁は「二次関数」

高校に入ると、

y = ax²

が、

y = ax² + bx + c

になる。

さらに平方完成して、

y = a(x − p)² + q

と変形する。

ここまでは計算である。

しかし、高校数学はここから急に性格が変わる。

軸はどこか。

頂点はどこか。

最大値・最小値はいくつか。

定義域が変わったらどうなるか。

x軸と交わるか。

二次不等式の解はどの範囲になるか。

さらに、文字定数aなどが入ってくると、条件によって答えまで変わる。

つまり高校の二次関数では、

式変形・方程式・不等式・グラフ・定義域・場合分け

を同時に使わなければならない。

中学では、それぞれを別々に解けていた。

高校では、それらを組み合わせて使う。

だから中学数学では問題なく見えた生徒が、ここで初めて大きく崩れることがある。

代々木ゼミナール教育総合研究所の高校教員向け研修でも、数学講師の山本俊郎氏は、高校数学で多くの生徒が最初につまずくところとして「2次関数と場合分け」を挙げている。

ここは非常に重要である。

本当の壁は「二次関数」より「場合分け」かもしれない

例えば、

y = x² − 4x + 5

を平方完成して、

y = (x − 2)² + 1

にする。

これは練習すれば、比較的できるようになる。

では、

0 ≦ x ≦ a

という定義域だったらどうだろうか。

aの大きさによって、

頂点 x = 2 が定義域に入る場合と、

入らない場合がある。

ここでは公式だけでは解けない。

「条件が変われば、答えも変わる」

と自分で気付き、分類しなければならない。

中学校までは、

「このタイプなら、この解き方」

でもかなり対応できる。

高校では、

「そもそも何通りに分ける必要があるのか」

を自分で考える場面が急増する。

ここが、中学数学と高校数学を分ける大きな境界線の一つである。

「解ける」と「分かっている」は違う

さらに厄介なのが、手順だけ覚えても点数が取れる場合があることだ。

例えば、

x² − 5x + 6 > 0

という二次不等式を見る。

「上に開く放物線だから、答えは外側」

と覚えていれば、正解できることがある。

しかし、

なぜ外側なのか。

y = x² − 5x + 6

のグラフとどう関係するのか。

「> 0」とは、グラフのどの部分を意味するのか。

そこまで説明できるだろうか。

数学教育研究でも、答えを出す手続きを身につけることと、関数として意味を理解することは同じではないと考えられている。

つまり、

問題集が解ける = 数学を理解している

とは限らない。

この違いが、問題が複雑になったときに表面化する。

次の壁は「三角比→三角関数」

二次関数を越えると、次の大きな壁として三角比・三角関数が登場する。

三角比では、

sin θ
cos θ
tan θ

を学習する。

最初は、

「sinは対辺÷斜辺」

「cosは隣辺÷斜辺」

と覚える。

ところが高2の三角関数になると、

y = sin x

になる。

三角形の辺の比だったものが、

一般角、

単位円、

弧度法、

周期、

グラフ

へと広がる。

ここで急に抽象度が上がる。

そして、この三角関数にも中学校からの長い伏線がある。

中3 相似
→ 三平方の定理
→ 高1 三角比
→ 高2 三角関数

である。

高2で三角関数につまずいた生徒に、三角関数の公式を何十問も練習させても改善しないことがある。

そもそも高1の三角比が曖昧かもしれない。

さらに戻れば、中3の相似や三平方の定理が怪しいかもしれない。

これが、

「学年で戻るのではなく、依存関係で戻る」

という考え方である。

微分でつまずいた。本当に微分が原因なのか?

高2数学IIでは、微分・積分が登場する。

例えば、

y = x³

なら、

y' = 3x²

となる。

公式だけなら、ある程度はパターン学習で対応できる。

ところが、

「増加する区間を求めよ」

「極大値・極小値を求めよ」

「グラフを描け」

となると、突然できなくなる生徒がいる。

ここで疑った方がよいのは、

微分が苦手なのではなく、関数が苦手なのではないか

ということである。

微分では、

導関数の符号を見る。

増加・減少を判断する。

極値を求める。

そしてグラフを描く。

つまり、高1二次関数で学んだ考え方を大量に使う。

さらにその根には、中3の y = ax² がある。

もっとさかのぼれば、中2の一次関数がある。

最重要ルートをもう一度書くと、

中2 一次関数
→ 中3 y = ax²
→ 高1 二次関数
→ 場合分け
→ 高2の各種関数
→ 微分・積分

である。

微分でつまずいた生徒が、中2の一次関数まで戻る。

一見すると遠回りに見える。

しかし、それが最短距離になることもある。

数学B「数列」は、また違う種類の壁である

高2では数列につまずく生徒も多い。

例えば、

1、3、5、7、9……

という数字を見る。

これを、

aₙ = 2n − 1

と一般化する。

ここでは、具体的な数字から規則を見つけ、それを文字で表さなければならない。

さらに漸化式では、

aₙ₊₁ = 2aₙ + 1

のような式が登場する。

これは、

「n番目はいくつか」

を直接表しているわけではない。

「n番目から次の項をどう作るか」

を表している。

数列では、

具体例を見る
→ 規則を見つける
→ 文字で一般化する
→ 再帰的な関係を理解する

という流れが必要になる。

二次関数とは違う意味で、抽象度が高い。

なお現行課程では、数学Bでは数列や統計的な推測などを扱う。

以前数学Bで扱われていたベクトルは、現在は数学Cに置かれている。

中3から高2までの「つまずき地図」

最重要なのは、関数ルートである。

中2 一次関数 → 中3 y = ax² → 高1 二次関数 → 場合分け → 高2 指数・対数・三角関数 → 微分・積分

ほかにもルートがある。

図形ルート

中3 相似 → 三平方の定理 → 高1 三角比 → 高2 三角関数

代数ルート

中3 展開・因数分解 → 平方根 → 二次方程式 → 高1 数と式 → 二次関数・二次不等式 → 高2 式計算・微積

一般化ルート

中学 文字式・規則性 → 高2 数列 → 一般項 → Σ → 漸化式

このように見ると、「数学が苦手」という一つの能力が存在するわけではないことが分かる。

「数学が苦手」を6種類に分解してみる

この記事で最も伝えたいことの一つが、ここである。

数学の苦手は、少なくとも6種類に分解できる。

1.計算の自動化不足

符号、分数、平方根、展開、因数分解で毎回立ち止まる。

考える以前に、計算そのものに頭の容量を使ってしまう。

2.代数操作の弱さ

式変形、方程式、不等式を自在に扱えない。

何をしてよいかは分かっていても、式を動かせない。

3.関数理解の弱さ

式・表・グラフを同じ対象として結び付けられない。

二次関数、三角関数、指数・対数、微積へ広く影響する。

4.図形理解の弱さ

相似、三平方の定理、三角比など、図から関係を読み取れない。

5.条件整理の弱さ

場合分け、場合の数、確率などで、

「どの条件なら、どの答えになるのか」

を整理できない。

6.抽象化・一般化の弱さ

数列、漸化式、証明などで、

具体例から共通する規則を取り出せない。

「数学が苦手だから問題集をもう一冊やろう」

では粗すぎるのである。

何が苦手なのかによって、戻る場所は全く違う。

症状から「戻る場所」を逆引きする

ここからは、実際にどう戻ればよいかを考える。

二次関数のグラフが描けない

→ まず確認すること:平方完成した式から、軸と頂点を言えるか。

→ さらに戻る:中3の y = ax²。

→ それでも怪しい場合:中2の一次関数まで戻る。

「xが変わるとyが変わる」という関数そのものの感覚を確認する。

二次関数の最大・最小が分からない

→ まず確認すること:頂点と定義域をグラフ上で確認できるか。

→ さらに戻る:中3の y = ax² と変域。

計算だけでなく、どの範囲のグラフを見ているのかを理解する。

場合分けができない

→ まず確認すること:「どの条件が変わると答えが変わるか」を言葉で説明できるか。

→ さらに戻る:二次関数の最大・最小、不等式。

場合分けは公式ではない。

条件を分類する思考そのものを練習する必要がある。

三角関数が分からない

→ まず確認すること:高1のsin、cos、tanを「比」として説明できるか。

→ さらに戻る:中3の相似と三平方の定理。

三角関数の公式暗記だけを増やしても、土台が曖昧なら改善しにくい。

数列・漸化式が分からない

→ まず確認すること:aₙが「n番目の項」を表すことを説明できるか。

→ 次に確認すること:aₙ₊₁が「その次の項」であることを理解できるか。

→ さらに戻る:中学の文字式、数の規則性。

数列は「具体的な数字」から「一般的な規則」へ移る力が必要になる。

微分公式は使えるのに応用できない

→ まず確認すること:導関数の正負と、元の関数の増減を結び付けられるか。

→ さらに戻る:高1二次関数。

→ それでもグラフが苦手なら:中3の y = ax²。

→ さらに必要なら:中2一次関数。

微分の計算ではなく、関数の理解が原因になっている可能性がある。

中3の穴が、高2で「利息付き」で返ってくる

高校数学について調べていて、私はこの表現が一番しっくりきた。

数学には「理解の負債」がある。

中3の y = ax² が曖昧だった。

しかし定期テストでは、解き方を覚えて70点取れた。

そのまま高校へ進んだ。

高1二次関数では少し苦労した。

それでも平方完成や解法パターンを覚えて何とか乗り切った。

ところが高2になる。

三角関数。

指数・対数関数。

微分。

さまざまな形で「関数」が再び登場する。

ここで、中3から積み残してきた理解不足が一気に表面化する。

つまり、

高2で突然数学ができなくなったのではない。

中3から積み残した「理解の負債」が、高2で利息付きで返ってきたのである。

逆に言えば、原因まで戻れば立て直すことはできる。

「戻る」のは敗北ではない

高校生にとって、中学校の問題集をやり直すのは抵抗があるかもしれない。

「今さら中2の数学なんて」

と思うだろう。

しかし、数学では戻ることは後退ではない。

高2の微分が分からない生徒が、中2の一次関数を復習する。

そこで「傾きとは何か」が初めて腑に落ちるかもしれない。

高2三角関数が分からない生徒が、中3相似に戻る。

そこでsinやcosが、ただの謎の記号ではなくなるかもしれない。

大切なのは学年ではない。

数学の知識が、どのようにつながっているかである。

数学を、

「中3数学」

「数学I」

「数学II」

「数学B」

という教科書の箱だけで考えない方がよい。

知識のネットワークとして見るべきなのである。

高校数学最大の分岐点は、やはり二次関数ではないか

今回、中学校教師、高校教育研究、数学教育研究、予備校講師の発信を横断して調べた。

もちろん、全国の教師に同じ質問をしたランキング調査ではない。

そのため、

「二次関数が全国で最もつまずきやすい単元である」

と断定することはできない。

それでも、複数の異なる現場から同じ単元が繰り返し登場する。

中学校では「関数」が代表的な苦手領域として扱われる。

高校では、予備校講師が「最初につまずくのは2次関数と場合分け」と指摘する。

さらに数学教育研究を見ると、二次不等式では答えを出す手続きができても、関数として理解しているとは限らないことが分かる。

だから、中3から高2までを一本につなぐなら、

中2 一次関数
→ 中3 y = ax²
→ 高1 二次関数
→ 場合分け
→ 高2の各種関数
→ 微分・積分

というルートを最重要ルートとして見たい。

数学が苦手になったときに、

「もっと勉強しなさい」

だけでは解決しない。

「どこから分からなくなったのか」

だけでも十分ではない。

本当に必要なのは、

「今できないことは、どの知識の上に建っているのか」

を調べることである。

数学のつまずきは、「今いる場所」だけ見ても原因が分からない。

そこへ至る道を逆向きにたどることで、初めて本当の原因が見える。

これが、中3から高2までの数学を調べて見えてきた最大のポイントである。

参考にした主な資料

東京都中学校数学教育研究会研究部関数委員会
『中学校数学科 関数指導を極める』

『数学教育』2024年9月号
「関数の苦手を克服するとっておきアイデア集」

代々木ゼミナール教育総合研究所
「数学が苦手な生徒の理解力や得点力を効果的につけるための授業例」

服部貴大
「2次不等式で最初に学ぶタイプの学習後の知識状態に関する研究」

太田絵梨子
「数学の概念的理解を評価するテストの提案と実践的検討」

文部科学省
『高等学校学習指導要領』

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