アンジェリークエトワール

エンジュの独り言
 
 
 
 
 
 






宮殿の大きな窓ガラスを鏡がわりにして、自分の身なりをチェックしてみた。

制服のリボンは歪んでない?
みつあみは曲がってない?
前髪変じゃないかしら?
顔がイマイチなのは仕方がないとして。
あーん、昨日夜更かししたから目が赤いかも。


守護聖様の誰よりも、この部屋の前に立つのは緊張する。
深呼吸して、扉をノックした。すぐに応えが返ってくる。




「失礼します。レイチェル様、今日は土の曜日なので、報告書をお持ちしました」

 

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百合とは言わんがエンジュ→レイチェル。オニャノコスキーなので。


 
 
 
 


研究がノってきたから今夜は徹夜になる、アンジェにはそう伝えておいた。
言外に先に寝てしまってくれて構わない、という意味を含んでおいたつもりだったが、彼女は別解釈をしてくれたらしい。
夜も更けたころ、おそらくノックをしてくれたとは思うが全く気づかなかった俺の鼻腔を刺激する、甘い香り。
―― 焼きたてのアップルパイ。
それに加えて休憩しましょう、と誘うアンジェの微笑みが付いてくれば、俺がノーと言えるはずがないだろう。

「レインって」

以前に俺が教えたのち、アンジェ風にアレンジされたミントティーを一気に飲み干す。
おかわりを注ぎながら、アンジェが口を開いた。…だが、その後の言葉が続かない。

「何だよ」
「…うぅん、なんでもないの。ごめんなさい」
アンジェはカップを俺に渡すと、空いた手と首とを左右に振った。ゆるく巻いた明るい色の髪が、さらりと揺れる。
彼女の言葉の先が気にならなくもなかったが、二杯目のお茶の味に満足して、俺はそれ以上の追求を止めることにした。


 


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ふーたりーのためーせーかいはあるのー

 
コルダ(無印)

土浦&冬海(バックグラウンドに月日)

…これ書いたころまだ2発売なんて夢の話だったんだよなー…



 
 
 
 
 
 







目の前に立つ音楽科の制服を着た1年生は、おとなしくて弱っちくって、「強さ」とか「元気」とかいう単語からはかなりかけ離れている女子だと、土浦梁太郎は思っていた。
最初に会ったばかりのころよりは、アイツの影響を受けたか、笑っている姿を何度も見るようになったし、その奏でる音も、華やかさを増していた。それでも、彼女と接するときは、つついたら壊れるんじゃあないか、とおびえてしまうのは今でも変わらない。



だから彼女から渡された楽譜の、意図するところが全然わからなかった。



「メモリーズオブユー?ジャズだろ、これって」
ほとんど古典の域に入るとはいえジャズのスタンダードナンバー、土浦家ではときどき伴奏につきあわされることもあるけれど、クラシック専門なはずの彼女がどうするというのか。
「…そ、卒業式の後のレセプションで、コンクール参加者を中心に演奏会をする…と、金澤先生が」
卒業式の後に謝恩パーティをするのはどこの高校でも同じだと思うが、こと音楽科を擁する星奏学院では、それがミニコンサートの形式になる。卒業生と在校生のトップによる演奏は毎年評判だが、コンクールの開催された今年度は、その期待も大きいらしい。
「はぁ?金やんもまた面倒なことに関わってるな」
「す、すみません…」
とたん、肩をすくめた彼女に消え入りそうな声で謝られる。こういうところが苦手だ。
「…ああ、ここで言っても仕方がないよな、すまん。で、レセプションはわかった。だけど何だってジャズなんだ」
「金澤先生がおっしゃるには、『打ち上げパーティなんだから、派手な方がいいだろ。だから、しんきくさい曲は禁止。そうだ、いっそのこと修三と彰でもいいぞ』だ、そうです…」
数字の間違いは金やん的にはボケたつもりだったのかもしれないが、彼女相手には通じなかったらしい。
「他のやつらは何をやるって?」
「志水くんはリベルタンゴ、香穂先輩と月森先輩は、さ、サラサーテのナヴァラ、だ、そうです…」
「…マジかよ」

超絶技巧を要する、しかもそのメンツ的にありえない曲名を聞いて、闘争心に火がついた、というわけでもないんだろうが、がぜんやる気が出てきた。
…いや。ヴァイオリンの二人は、あいつらなら、そのうちいつかやっていたかもしれない、か。



彼女に返した楽譜を、今いちど受け取りなおす。
火原先輩と柚木先輩、あの星奏アミーゴを送り出すには、このくらい意表をついてちょうどいいんだろう。
「――了解、付き合うぜ」

土浦の言葉に、眼前の後輩の、耳下で切り揃えられた髪がふわり、と揺れた気がした。
 
 










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次は無駄に派手派手しい曲にチャレンジするよ冬海!!(ぇー)

彩雲国

某スレの流れに触発されて書いてみた兄vs弟。

 






「いらっしゃい」と、彼は言った。
そう、いつもどおり「秀麗の菜を食べにきた」だけだとでもいうように。
(それも、常識下では考えられない話だったんだがな)
彼は知っているはずだ。自分が今日、何のためにここにきたのか。

尊敬する兄上であり、誰よりも信頼する部下であり、そして、愛する秀麗が伴侶として選んだ…
…選ぼうとしている。
以前自分は秀麗に言った。もし結婚が決まったら、必ず教えるように、と。その相手を叩きのめしてやるから、と。
それは半ば冗談ではあったが、今の自分にとって、秀麗を失うことはもはや考えられなくなっていた。

而して彼女はその約束を守った。
文に書かれた相手の名前を読むのに、半刻ほどかかった。
一般的に考えれば可能性としては一番高かったのかもしれないが、何故か彼らを良く知る人たちほど、その可能性を一番に排除してしまっていた。
それでもやはり、秀麗の傍らに立つ人物として静蘭は最もふさわしいであろう。

さんざ悩んだ。迷った。
素直に祝いたい。大好きな兄上と秀麗の結婚だ。祝えるはずだ。
そう自分に言い聞かせ、寿ぎの文を書こうとして…失敗した。
自分のなにかが壊れてしまう、そんな気がした。

そうしてその夜、劉輝は邵可の邸を訪なった。


彩雲国

龍蓮×秀麗(「×」というより「心の友その1」で充分な感じ・・・?)
茶州騒動のその後(※捏造)



 
 
 






 
茶家騒動も、奇病も邪仙教の件も、ようやく全て片付いた。そのまま何日も州牧邸に居ついている龍蓮だが、彼のことだ、再び突然旅立ってしまいかねないと、秀麗は彼を誘った。
「この街の全部を、見ていってほしいの」


「…ありがとね、龍蓮」
城郭を吹き上げてくる風に、結い上げた髪があおられて乱れる。
彼女自身が護ったその街を見下ろしながら、秀麗は隣に立つその自称心の友に、言うともなしにつぶやいた。


「私は何もしていない。―― できなかった」
龍蓮は城壁に身体をもたせかけ、ふと懐から鉄笛をとりだして吹口を風上に向けた。
怪音しか聞いたことのない彼の鉄笛が、風に吹かれて不思議な旋律を奏でる。
「愛する心の友たちの危機に、何もできなかった。影月には赦してもらえたようなのだが、秀麗、君にも問いたい。私は友失格だろうか」
「何言ってるの。嬉しかったんだから。いけないことだとわかってるんだけど、『ああここでいつもなら龍蓮が引っ掻き回しつつ助けてくれるのに』って願っちゃったのね。そうしたら、本当に龍蓮がいるんだもの。それで充分よ。
権力行使や現世利益ばかりが友達の役割だなんて思ってるとしたら、ちょっと本気で殴るわよ」
ひといきにそう言って秀麗は龍蓮に向き直り、殴る替わりにその頬をつかんで思い切りひっぱった。










『藍より出でて青』発売少し前に書いたのですが結果的に捏造になりま…し、た…スミマセン