コルダ(無印)

土浦&冬海(バックグラウンドに月日)

…これ書いたころまだ2発売なんて夢の話だったんだよなー…



 
 
 
 
 
 







目の前に立つ音楽科の制服を着た1年生は、おとなしくて弱っちくって、「強さ」とか「元気」とかいう単語からはかなりかけ離れている女子だと、土浦梁太郎は思っていた。
最初に会ったばかりのころよりは、アイツの影響を受けたか、笑っている姿を何度も見るようになったし、その奏でる音も、華やかさを増していた。それでも、彼女と接するときは、つついたら壊れるんじゃあないか、とおびえてしまうのは今でも変わらない。



だから彼女から渡された楽譜の、意図するところが全然わからなかった。



「メモリーズオブユー?ジャズだろ、これって」
ほとんど古典の域に入るとはいえジャズのスタンダードナンバー、土浦家ではときどき伴奏につきあわされることもあるけれど、クラシック専門なはずの彼女がどうするというのか。
「…そ、卒業式の後のレセプションで、コンクール参加者を中心に演奏会をする…と、金澤先生が」
卒業式の後に謝恩パーティをするのはどこの高校でも同じだと思うが、こと音楽科を擁する星奏学院では、それがミニコンサートの形式になる。卒業生と在校生のトップによる演奏は毎年評判だが、コンクールの開催された今年度は、その期待も大きいらしい。
「はぁ?金やんもまた面倒なことに関わってるな」
「す、すみません…」
とたん、肩をすくめた彼女に消え入りそうな声で謝られる。こういうところが苦手だ。
「…ああ、ここで言っても仕方がないよな、すまん。で、レセプションはわかった。だけど何だってジャズなんだ」
「金澤先生がおっしゃるには、『打ち上げパーティなんだから、派手な方がいいだろ。だから、しんきくさい曲は禁止。そうだ、いっそのこと修三と彰でもいいぞ』だ、そうです…」
数字の間違いは金やん的にはボケたつもりだったのかもしれないが、彼女相手には通じなかったらしい。
「他のやつらは何をやるって?」
「志水くんはリベルタンゴ、香穂先輩と月森先輩は、さ、サラサーテのナヴァラ、だ、そうです…」
「…マジかよ」

超絶技巧を要する、しかもそのメンツ的にありえない曲名を聞いて、闘争心に火がついた、というわけでもないんだろうが、がぜんやる気が出てきた。
…いや。ヴァイオリンの二人は、あいつらなら、そのうちいつかやっていたかもしれない、か。



彼女に返した楽譜を、今いちど受け取りなおす。
火原先輩と柚木先輩、あの星奏アミーゴを送り出すには、このくらい意表をついてちょうどいいんだろう。
「――了解、付き合うぜ」

土浦の言葉に、眼前の後輩の、耳下で切り揃えられた髪がふわり、と揺れた気がした。
 
 










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次は無駄に派手派手しい曲にチャレンジするよ冬海!!(ぇー)