研究がノってきたから今夜は徹夜になる、アンジェにはそう伝えておいた。
言外に先に寝てしまってくれて構わない、という意味を含んでおいたつもりだったが、彼女は別解釈をしてくれたらしい。
夜も更けたころ、おそらくノックをしてくれたとは思うが全く気づかなかった俺の鼻腔を刺激する、甘い香り。
―― 焼きたてのアップルパイ。
それに加えて休憩しましょう、と誘うアンジェの微笑みが付いてくれば、俺がノーと言えるはずがないだろう。

「レインって」

以前に俺が教えたのち、アンジェ風にアレンジされたミントティーを一気に飲み干す。
おかわりを注ぎながら、アンジェが口を開いた。…だが、その後の言葉が続かない。

「何だよ」
「…うぅん、なんでもないの。ごめんなさい」
アンジェはカップを俺に渡すと、空いた手と首とを左右に振った。ゆるく巻いた明るい色の髪が、さらりと揺れる。
彼女の言葉の先が気にならなくもなかったが、二杯目のお茶の味に満足して、俺はそれ以上の追求を止めることにした。


 


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ふーたりーのためーせーかいはあるのー