地震 | いつか旅立つ日が来たとしても

いつか旅立つ日が来たとしても

ひとりと一匹と、その日々のこと。

震災3日目には部屋も片付き
その夜は、おまえをユニットバスから
連れ出して、同じ布団で寝た。

よっぽど怖かったのか
その夜、初めておまえは、トイレまで
行けず、粗相をした。

もちろん、いちばん不本意なのは
綺麗好きな、おまえのはずで
だから、オレも叱らず、温かいタオルで
身体を拭いてやった。
おまえは短毛なので、風呂には入れかったので、これも初めてだった。
気持ちいいはずなのだが、
粗相をしたのが不本意だったのか、
ショックだったのか、おまえは
仏頂面でじっと動かなかった。

よほど、その時の経験がショックだったのか、
その日から、おまえは、ちょっと変わった。

それまでは、震度1程度なら、
意にも介さなかったおまえが
家族でいちばん地震に敏感になった。

少しでも部屋が揺れると
飛び起き、
「早く逃げよう」
とオレたちを促すようになった。

オレたちからすると、まずは
テレビのニュースで情報を見て
判断するのだが、
それももどかしく思えるようで
おまえは何度も
「逃げよう」
と訴えてくる。


大丈夫だからと言っても
この非常時になにをのんびりしている
と言いたげに、オレたちを急かす
おまえが面白かった。