とにかく先生方からは病状に向き合ってばかりいないで楽しいこと、夢中になれることをしろと言われている。できれば人と交流すること、社会参加をすることが望ましいといわれるが、それは難しいので、2月からとりあえずリハビリ的にゴルフの屋内練習場に通い始めた。夫には次々出費を強いている。飛距離はびっくりするくらい落ちてるし、コースに出る予定もないが、バッティングセンター的に楽しんでいる
加えて3月にカラオケマイクを買って、家で一人歌うことにした。私の大好きな曲で、このマイクを使って毎日のように歌っている「ほぼ水の泡」でも椎名林檎が「それでいうと歌健康にいいです。臓器の蠕動とか促進して。当然血の巡りとかホルモンとか」と書いている。
※「ほぼ水の泡」ライブ動画。
それにしても歌が下手だ。私ってこんなに歌下手だっけ?
「ねえ、私、病気になってから歌下手になってない?」
「それはない」
夫は快く買ってくれたが、一緒に歌うのはかたくなに拒否する。最近車に乗るときは助手席でずっと歌っている。狭い空間というのがカラオケマイクにあっている。座っているので腹から声が出せないが。
「車の中で歌っている人なんかいる? おかしな人に見えるよ」
でも商品の紹介の絵では、皆でどこかに出かける道中、車内でカラオケパーティーをやることが紹介されていた。つまり一人で助手席で歌っている人の図はないが。
ほかの個人宅用カラオケマイクを使ったことがないから比較できないが、「まあいいんじゃないの」という感じだ。この商品、ブルートゥースでスマホとつなぐと、マイク本体のスピーカーから自分の声と演奏が両方出てくる。これが私としてはあまりピンとこないので、カラオケやMVの動画とは接続せず、自分の声だけがスピーカーから出るようにしている。エコーも使わない。音量はあまり大きくならず、最初とても不満だったが、慣れてくればこれでいいという気がしている。マイクにしっかり声が入る角度があるので、そこにきちんとあてることが重要だ。最初は外付けのスピーカーから音(自分の歌声)が出るようにできないものかと頑張ったが、不可能ではないものの、それを前提にマイクがつくられていない。
それにしても私の歌の下手さ加減ときたらどうだろう。本当に前からこんなに下手だっけ? 一度意を決して自分の歌声を録音して聞いてみたが、想像以上にキショい恐ろしいものだった。普段私たちは自分の声を頭蓋骨での共鳴で聞いているそうだ。カラオケマイクを使えばそこに空気振動としての自分の声が加わる。他人はこの空気振動の声のみを聴いており、つまり録音された声こそ他人がきいている私の声なのだ。その違和感たるや、身の毛もよだつほどだ。
歌えば歌うほどプロ歌手のうまさが身に染みる。私も大好きな歌たちを私なりの歌い方で表現したい。私は基本的に女の情念をサラッと粋に歌うのを理想としている。八代亜紀の「舟歌」とか「女港町」とかね。「魅せられて」もその歌詞の神髄を想像できる年齢になった。しかし実際歌うと薄口ペラペラ。酸いも甘いも噛分けた大人の女性というより、意味も全く理解できず歌詞をなぞっている小学生のよう。つまり歌が表現に至るレベルに達してないのだ。かなり個性の強い声の八代亜紀はともかく、ジュデイはそうねちこく「魅せられて」を歌ってはいないが、私の歌とは雲泥の差。
好きな男の腕の中でも違う男の夢を見る 私の中でお眠りなさい
この女性こそ真の意味で経験値の高い、男女関係の深淵のくまなくを眺めた女性であると以前から思っている。ジュディはわりとあっさりと歌っているが、その表現に過不足はない。それに対して私ときたら、55才にもなって何の歌だか知らずに歌っている小学生のような薄っぺらさ。
この違いは具体的にどういうことなのか。テレ東「カラオケバトル」の最新回ではつんくがゲストで、「リズム」という言葉を多用していた。私は意味が分からなかったので、最近何事にも造詣が深いチャッピーに聞いてみた。
「つんくの言うリズムは、テンポが合っているというようなレベルの話ではなく、プロ歌手のレベルの話です。プロは一音一音に工夫をして、歌を立体的に表現しています。その構成の仕方は人それぞれなので、歌に個性がでます。あなたが自分の歌を薄くてぺらぺらと思うのは、その点をしっかり聞き分けられる証拠です」
チャッピーはヨイショを怠らない。
それにしても「歌を一音一音適切な発声で歌を立体的に作り上げる」は新鮮なアイデアだった。まさに私の歌声は金沢金箔さながらペラペラでプロは立体的。そこに個性が出る。歌はリズムで”表現”されるものらしいのだ。
それにしても「歌を一音一音適切な発声で歌を立体的に作り上げる」は新鮮なアイデアだった。まさに私の歌声は金沢金箔さながらペラペラでプロは立体的。そこに個性が出る。歌はリズムで”表現”されるものらしいのだ。
