最近浅田次郎氏によるエッセイを三冊読んだ。「勇気凛凛ルリの色」(講談社文庫 640円)、「つばさよつばさ」(小学館文庫 476円)、「勝負の極意」(幻冬舎アウトロー文庫 457円)だ。20年くらい前だったか、「初等ヤクザの犯罪学教室」というエッセイも文庫で読んで面白かった記憶だが、現在は絶版のようだ。

 三冊とも頭からお尻までめっちゃオススメ、というところまではいかないが、それにしても文章巧い。あたしが言ってもしょうもないが。川端とか谷崎とか死んじゃった文豪系は除いて、このブログで扱った作家となると宮本輝と浅田次郎が抜群に巧いかな。村上春樹も独特な文章ではあるけど、やっぱり巧いかな。

 三冊の中で一番好きな箇所が多かったのは「勇気凛凛ルリの色」。ちょうど浅田氏が売れない作家時代から抜け出していこうとしている時期で、脂が乗っている。「ハゲについて」なんかも面白いが、今回は特に「強運について」の項目を取り上げたい。

 以前MX「五時に夢中」のゲストに占い師のゲッターズ飯田が出た。ゲッターズ曰く、宝くじを当てたいと思うなら、運気のいい時に買うべきではないとのこと。「普通当たらない」ものだから、普通でない、なにやってもうまくいかないような、運気の不安定なときにこそ当選の可能性は上がる、という。浅田次郎は期せずして典型的な自身の一例を挙げている。浅田氏は「生きているのが不思議なくらいの不幸のどん底」、浅田氏が当時所属していた”業界”でいうところの「クスブリ」状態にあるときに、スクラッチのスピード宝くじで100万をあてたそうだ。そもそも宝くじで一発逆転を願ったわけでもなく、行きがかり上、半ば仕方なく二千円分買った。この辺のいきさつも当選にふさわしい。

 

 おりしもケバい女子社員が(浅田氏が半ば軟禁されている)倉庫の隅でコピーを取っていた。私が(当選の)宝くじをつまんで幽鬼のごとく背中に立つと、女子社員はいきなりパンツを脱がされたくらいに愕いた。

「待て。何もしない。これを見てくれないか」

 クスブリの何たるかを知っているらしい女子社員は、口を押さえながら宝くじを手に取り、「ああっ!」と凍結した。

「言うなよ、誰にも言うなよ」

「言わないわ、ゼッタイ言わないわ」

 命ばかりはお助け、という感じで女子社員は出て行った。

 

 結局女子社員はさっそく社長らにバラし、100万は債権者であるところの社長にそっくり取られたが、これを機に浅田氏は”クスブリ”から脱出したそうだ。み〇ほ銀行の前身で当選金を受け取ったときのことも書かれている。

 

 銀行に行き、「宝くじ、当たっちゃったんですけど」というと、窓口の女も「ええっ!」と目を剥いた。胴元がアセるぐらいなのだから、このバクチはかなりボロいのだろう。

 

 浅田氏は繰り返し「競馬はもうからない。JRAが25%をテラ銭を持っていく以上、1000円の馬券を買って750円に替えているのと同じ」と言っている。伊集院静氏も「胴元のいるバクチは絶対儲からない」と言っている。こういうひとがこういうことを言うと非常に説得力がある。宝くじに至っては半分がテラ銭だ。伊集院氏はさらに、「では胴元がいなければ儲かるかというと(賭け麻雀とか)、それでもプラスにもっていくのは至難の業」と言っていた気がする。賭け麻雀といえば蛭子さん。逮捕されたとき、「もう絶対バクチはしません。賭けてもいい」と警察に言ったとか言わないとか。
 浅田氏が言うところの「クスブリ」だが、「クスブった時にはなるべく動かず、絶対安静にして運気の回復を待つしかない」と書いている。私のクスブリ時代は浅田氏のように命の危険を幾度となく感じたり、命までは取られまいとか思ったことはないが、この感覚は私にもわかる。浅田氏は当選した100万がそっくりその場で返済金になったが、「(当選を)キッカケに、幸運は次々とめぐってきた。まるで幸運で満員になった観光バスが玄関に止まって、いろんな神様がゾロゾロと降りてくる感じであった」(勝負の極意)そうだ。私の決して短いとはいえないクスブリ時代にも終わりは来た。その幸運に浅田氏ほどのきらびやかさはないが、夫と出会って交際1日の電撃婚をし、現在に至っている。
 ちなみにうちの夫だが、なんせ夫が47歳の時に知り合っており、それ以前に二度も離婚している。その人生の詳細はわかりようもないが、私の見聞きしている範囲で最大の「クスブリ」時代は19歳頃、大学受験に失敗して2年間くらい? 東京でフリーターというか水商売(居酒屋の店長)をしていた時期ではないかと思われる。その後父親の進言に従って地元に帰り就職したところから、非常にゆっくりとではあるが確実に、彼の社会人としての一種の「快進撃」が始まる。私と結婚して以後もちょこちょこと逆境といっていいようなしんどそうな時期はあったものの、期間的な長さやその後の「潮目」が徐々に大きく変わっていくところなどをみると、20歳過ぎて地元で就職したときが人生における最大の転換点といっていいだろう。そして彼の「クスブリ」時代の経験は私の見たところ間違いなく彼を鍛えてその後の快進撃への備えとなっている。
 そして浅田氏も私も夫も、まだ人生は終わっていない。これから運も不運も、何が待ち受けているかはわからない。

 

★今週の出来事★

9/28 20日よりラグビーワールドカップが日本で開催。プールA予選において、世界ランク二位で優勝候補の一角のアイルランドに19-12で9位の日本が勝利。

10/1 消費税が8%から10%に増税。ただし軽減税率などで軽い混乱あり。