※ネタバレあり

 2019年アメリカ。最近新作映画との相性の悪さをたびたび書いておりますが、今回も見なきゃよかった系だったかも。私としての結論は「中途半端な作品」。焦点ボケ。そのせいですっかり後味の悪い作品に仕上がったこの映画。とりあえず久しぶりに新作を完走はしたので記事にするものの。実際あった話をもとにしており、登場人物はほとんど(全部?)実在の人物。

 

 自社のブランドイメージを上げようとフォード社は破産寸前のフェラーリ買収を画策。フェラーリは収支そっちのけで車の性能を上げることに専念しており、長年モータースポーツ界の王者として連覇を続けていた。経営に行き詰ったエンツォ・フェラーリだが、それでも誰がヤンキー相手に、とばかりフォードが買収に乗り出していることをダシにいい条件を引き出して、自社をフィアットに売却。フォード代表としてイタリアに足を運んだアイアコッカ(イタリア系)らを面と向かって侮辱した上で破談にした。「所詮二世」と経営のノウハウもわかってないイタ公にバカにされたヘンリー・フォード二世は打倒フェラーリを旗印にアイアコッカにル・マン参入を指示。アイアコッカはわずか90日で「ひどい車」を作るフォードがフェラーリに勝てる車とドライバーを獲得しなくてはならなくなった。
 アイアコッカはアストンマーチンのドライバーとしてアメリカ人で初めて1959年にルマン24耐に勝利したキャロル・シェルビー(マット・デイモン)に話を持ちかける。シェルビーは心臓病でレーサーを引退。自動車販売業にレーシングカーの製造も手掛けていたが、経営が順調とはいえなかった。レースに対する情熱を捨てきれないシェルビーはイギリス人レーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)に声をかける。ケンはいろいろなレースに何度も優勝しており、シェルビーもそのドライビングセンスを長らく評価していた。外国のドライビングチームからも声がかかるほどだったが、口が悪くて融通の利かない性格はチームプレーにも商売にも向いていなかった。ケンは小さな自動車整備工場を営んで生計を立てていたが、レースにお金をつぎ込んでいることもあり、税金を滞納するほど経営に行き詰まっていた。そんな二人がル・マン制覇に乗り出す。
 

 153分と長い。二時間半以上って。盛沢山の内容をギチギチに詰めてコレかと思ったらそうでもなく、特に前半、無駄に気取ったり冗長を感じるシーンは多かった。例を挙げるなら冒頭の嫁さん登場のシーンとかね。時間が長いわりに説明(状況・登場人物たちの関係等)はヘタクソで分かりにくい。字数制限含めた字幕のマズさがそこに重なっている印象も受ける。最初ぼーっと見てると、誰がどういう状況で何についての話をしているのか、シーンがストーリーに対してどういう意味をもつのかわかりにくい。
 「事実」が決まっている以上大筋は変えられないわけだけど、製作側というか脚本家というか監督というかは、どういう話を描こうとしていたのかよくわからない。最も描きたかったのはケン・マイルズという「車バカ」の生き様なのか。ケンとシェルビーのレースを通した男の友情なのか。どっちにしても焦点ボケ。見終わったあと「結局なにが言いたいん?」と食ってかかりたくなる内容だ。ケン・マイルズは性格に難アリのためいろいろな苦難にあうが、見てるこっちは正直で口が悪いだけで、仕事熱心だし家族想いだしで、なんでそんなに否定・排除されようとするのかよくわからない。「悪役」は副社長なんだけど、キャラクター設定がくだらない感じに陰険なだけ。彼なりの正義とか利害意識が観客に伝わってこない。単にケンとの出会いの印象が悪かったというだけで陰険なイジメを執拗に続けているように見えてしまう。どんなにひとりよがりでも彼なりに「フォードのため」っていう大義名分がこっちに伝わらないと。なんでこんな男が副社長? ていうかなんで社長は彼をレースの責任者に? アイアコッカがいるのに? 口が悪いだけの誠実な男がしょうもない陰険小物副社長にイビられているだけの話にしかみえん。悪役のキャラが薄っぺらだと物語はつまらなくなる。その辺悪役を描くのが巧かったのは韓国ドラマ「チャングムの誓い」だよなあ。悪の一族「チェ一族」の面々の描き方が巧くて物語全体に説得力があった。そこいくとこの映画、ケンは自分を賭けたといっていいル・マンで八百長を強いられ、挙句の果てにレース後あっさり事故死。「でも事実だから」って結局何が言いたいんだ。based on true storyならもっと副社長とかケンの性格的な難をしっかり描かないとダメだろ。この二人に限らず、シェルビーもアイアコッカもキャラクターのはずなのにイマイチその個性が迫ってこない。結局ソレなんだよね。キャラが誰一人として立っていない。事実をもとにしていながら、リアルに迫ってくるものがなかった。ネタモトが事実かどうかに関係なく、優れた作品には強固な作品世界があり、作品で描かれていないことを観客に勝手に想像させてくれる。描かれてはいないが、この登場人物ならこういう場面でこう言うだろう、こういう行動をとるだろう、っていうね。それがあると、細かいところで多少破綻(ツッコミどころがある)としても物語としての魅力は失われない。そういう「リアリティ」がこの作品はない。結果この作品が最終的に言いたいことって「人生って報われないよね」になっちゃった、といった印象。同じ内容でも描き方で男の生き様の話にも男の友情の話にもできたのに。その点においては誰にも侵させない輝きを描くような。
 

 余談だが、以前サンドイッチマンが司会のバラエティ番組で、中島悟、片山右京らが東京の路地に建つ普通の民家の激狭駐車場に何秒で停められるか、というのをやっていた。2500万くらいのGTRの新車を幅ギリギリの路地でバックで入れるというのに中島がチャレンジ。路地の入口からえらいスピードでバックしていき、ほとんど切り返すことなくぴたっと駐車していたのを見て感動したのをよく覚えている。駐車場の左右の余裕は10センチ以下。私は速く走れるのがレーサーだと思っていたので、とても驚いた。運転巧いよ、あんた。夫はそんな私に呆れていた。
「数センチの差でカーブを曲がったり追い抜いたりするのがF1レーサーだぞ」 

 あたしみたいなもんは、その辺の家の激狭駐車場でドライビングテクニックを見せてもらったほうがわかりやすいのよね。

 いうまでもないが、車好きのほうが楽しめる。特にマシンとしての車に興味があるひと。そうでないひとはお呼びでない、ってほどでもないが、小説「麻雀放浪記」を読んだ時のことを思い出した。あれも麻雀の基本を知ってる人のほうが楽しめる。今回調べた語句を以下に記す。
●NASCAR(ナスカー National Association for Stock Car Auto Racing)・・・全米自動車競走協会。NASCARが仕切る市販車両レースを指すことも。冒頭シェルビーが医者に24時間耐久レースのような長時間レースには出ないと言っている。また前半で最初にシェルビーとマイルズが顔を合わせるレース会場もコレか。
●7000回転の世界・・・7000revolutions per minute。一分間にエンジンが7000回転?。車に疎いのでこういうのよくわからん。普通の車がアイドリングしてて600回転くらいらしい。あたしは最初タイヤの回転数かと思った。
●ドラッグレース・・・直線コースで停止状態からスタートしてタイムを競うレース。
●ビートニク・・・beatnik。当時の中産階級的、保守的な価値観に反逆し、積極的な貧困を肯定するひとたち。