秀吉に呼び出されて行ってみれば、案の定、室として迎えたいとのことだった。茶々には予期していたことだが、屈辱的で到底受け入れられない笑い話であった。
「さすれば寧々殿はどうなさるのですか。私が正妻となれば重臣たちがいい顔はしますまい」
「そなたには誠申し訳ないが、わしの、豊臣家の正妻は寧々よりおいて他にない。このことについては平身低頭頭を下げる」
そういって秀吉は畳に額をつけた。茶々にふつふつと怒りがわいた。母の、父の、伯父の高貴な血が踏みつけられている気がした。
「代わりにと言ってはなんじゃが、見ての通りわしにはこの年になるまで子がない。よってそなたの子はすべてわが秀吉の子、男子は跡取りとすることを約束する」
茶々はいったい何を言っているのか理解できなかった。確かに秀吉は種無しであろう。そばにいた大蔵卿が言った。
「姫様、このお話、悪い話ではありますまい」
「わしも子が欲しいのはやまやまなれど、このありさま。室は数多くいるが、誰も子を宿さない。そなたは大殿の姪、わしにとっても主筋の姫の子となれば、豊臣家跡取りに真ふさわしい。ただし表向きは当然我が秀吉の子として育ててゆく」
秀吉は話をつづけた。わしも無理強いをする気はない。側室がどうしても受け入れられないなら、わしとしても心ひきさかれる思いだが、しかるべき婚姻相手を探そう。側室になるのはいいが、跡取りなどは作りたくないというならそれもかまわない。しかしどうかこの秀吉の意をくんで、わしの余生を共にすごしてくれればありがたい。
(全10回)