2021年アメリカ。リドリー・スコット監督作品。殺人がらみの揉め事をドラマにするなら舞台は金持ちの家に限る。刑事コロンボがいい例よね。貧乏人の家で殺人事件とかって、みたくもないわ。

 

※ネタバレあり


 1978年のミラノから話は始まる。実際にあったグッチ創業家一族のマウリツィオ・グッチ殺害事件に至る過程を描く。
 おぼっちゃまで世間知らずのマウリツィオ(アダム・ドライバー)はトラック運送会社の娘パトリツィア(レディ・ガガ)と駆け落ちして結婚する。パトリツィアの実家に転がり込む形の結婚だったが、若い二人は特に何に不自由するでもなく幸せにやっていた。ところがマウリツィオの伯父で二代目社長のアルド(アル・パチーノ)がマウリツィオをパトリツィアともどもグッチ家に呼び戻そうとする。そもそもグッチの名に惹かれてマウリツィオを誘惑したパトリツィアだが、そんな彼女の目の前に持ち前の野心を抑えがたくくすぐる、グッチ家とグッチの事業実態が次々とさらされていく。パトリツィアはやがてグッチ家の事情や事業について堂々と夫に意見、指図するようになっていく。

  結論から言うと、期待通りの面白さ。期待以上までとはいかないが。どこまでほんとか知らないが、これがほぼ?事実かと思うとセレブのゴシップ好きには大変興味深い。というわけで、そういうのに興味のない人には退屈であろう。全編を通して「グッチ家の崩壊」を描いていく。ただ2時間40分は長い。長いわりにパトリツィア(ガガ)が夫殺害を計画して実行、裁判にかけられるまでの終盤の過程はえらい端折っている。夫が他の女のところに行って二人に嫌がらせを始めたな~と思ったら殺人までひとっ飛び。唐突。衝動に駆られてでなく計画殺人ですよ⁈ 中盤までの展開の丁寧さと比べると終盤のそれはかなり雑だ。マウリッツィオ殺害が話のキモのはずなのに、肝心なところがふわっとしている。占い師(サルマ・ハエック)とパトリツィアの関係が不明瞭なのもその一因だろう。占い師が積極的に殺人教唆をしている描写はなく、占い師自身もリスクを負ってなぜ殺人に荷担してるか謎。どっちが関係の主導権を握っているのか、対等の共犯的関係で情の部分において異様な紐帯があるのかなどの描写があまりない。やたら一緒に風呂入ってるけど、それだけ。脚本か編集に問題あるよ。サルマ・ハエックは無駄遣いだったなあ。昔フリーダ・カーロとか見たもんよ。そう思ってなんとなく調べていたら、サルマの旦那さんはグッチやサンローラン等々を傘下に治めているグループ会社のCEOらしい。映画と関係あるのかしら。作品中では中東の資本に買収されるんだけど。サルマのフランス人の旦那さん(フランソワ・アンリ・ピノー氏)は「ディオールと私」にチラリと出ていたLVMHのベルナール・アルノー氏みたいなもんだね。だったらなおさらサルマの役をもっと掘り下げ、作品における役割をもっと明確にしてほしかった。あの占い師は全体を通していったい何をしたかったのか? 金持ちでキャラの強いパトリツィアに引きずり込まれただけで、とことん主体性のない占い師だったのかしら。終盤もろもろ説明不足でモヤモヤする。マウリツィオを取り戻そうと、やたら娘を引き合いに出していたパトリツィアがその娘の父親を殺すことにどういう折り合いを自分の中でつけていたのか? 終盤になるとそれまであった作品のリアリティ、生き生きとしたドラマがこっちに迫ってこなくなる。


 ガガ含めて華のある名優揃い。ガガが常に燃える野心を隠せない目つき、顔をしているのがすごい。芝居でなく常にあんな顔か。はまり役。アダム・ドライバーは目立った芝居をするでもなく、野心なんて持ちようもなく、大人しくて生活力のないマウリツィオを的確に表現。従兄役のジャレット・レトもいい。
 ファッション、インテリア、車なんかももちろん見もの。アル・パチーノが突然カタコトの日本語を話しだして御殿場進出の話をするのも日本人のゴッド・ファーザーファンにはたまらん。ただ当たり前だけどマイケル・コルレオーネの芝居とは全然違ってて流石。ちなみに今ある御殿場のアウトレットは2000年の創業なので、映画にあったあのくだりはなんなのかしら。1980年頃のシーンだとすれば事業計画は20年前からあった?? それはいくらなんでもないだろう。20年て。グッチはそのアウトレットに現在あるんだけど。ただアルド(アル・パチーノ)のわりと節操のない拡大路線好きは事実のようだ。
 実際二人が結婚したのは1972年?らしいが、この映画は1978年スタートになっており、全体として「いちおうフィクションですよ~inspired by the true story」ってあたりかな??? マウリッツィオが殺されるのは1995年3月なので結構最近。1948年生れ?なので47歳頃殺されている。パトリツィアも同い年?

 登場人物が英語話してっけどw たまにチャオとかセニョールとか出る。作中テレビはイタリア語と思いきや突然英語でちゃんぽん。主人公のパトリツィアを演じたガガはイタリア系らしい。もちろんアル・パチーノは言わずもがな。よって二代目グッチはマフィアの親分に見えるわw アダム・ドライバーにはイタリアの血は入ってないみたい。アダム・ドライバーの父親でアル・パチーノの弟を演じるジェレミー・アイアンズは私の好きな俳優なんだけど、久しぶりに見て年取った~イギリス人なんでもちろんイタリア系のわけもなく。
 この映画きっかけで知ったが、創業者(アル・パチーノとアイアンズの父親)はグッチオ・グッチ(Guccio Gucci)だからグッチのロゴはアレなのね?

 

※同じく老舗ハイブランドものでも、こちら↓はデザインの現場のドキュメンタリー。創業家一族のゴタゴタとは無関係w ただ当然だけど全然関係ない世界の話でもなく。トム・フォード(もちろん俳優)の「グッチ」デビューのシーンがこの「ハウス・オブ・グッチ」に出てきます。あれがファッションショーの定番で、こっちのサム・シモンズの巨額設備費は例外。
 こっちの記事で書いた、トップオブザトップだったスーパーモデルのリンダ・エヴァンジェリスタだけど、サルマの旦那さんの子供を産んでるらしい(サルマとの結婚前)。やっぱハイブランドといえど(だからこそ?)世間は狭い。