文体とか文芸とかいうとなんか小難しいが、要は口調と同じだと思う。話芸といわれたほうがわかりやすいか。「すべらない話」とかね。同じ話でも話す順番とか言葉の選び方、どの部分をふくらますか、省略するか、全体の長さ、声のトーン、速さ等で受ける印象はがらりと変わる。そういった町田康の「文体」を楽しむ作品だ。というわけでそれにハマれないと楽しめない内容になっている。
舞台は歴史的建造物としての趣も備えた九界湖ホテル。経営は行き詰まっているが、近くにパワスポで名高い神社がある。
「むっさパワーありますよ。縁結びとか特に凄いですよ。もう、目の前でみるみる結婚していきます」
どういうことなんだ、目の前で結婚って。婚活にいそしみ、神頼みも怠らなかった私としてはこういった箇所には妙に食いついてしまう。
「広大な九界湖の畔に建つ、良縁をもたらすという触れ込みの神社には思い詰めたような顔の若い女性が絶え間なく訪れ、その様子には鬼気迫るものがある」
そうでしょうとも。オーラとなっているでしょうね。きょうびはそんなに若くない女性も絶え間なく訪れるわよ。
このホテルを舞台に「湖畔」「雨女」「湖畔の愛」の三つの短編によって構成されているが、どう評価するか。三つの中では最後の「湖畔の愛」が一番面白いが、全体の評価としては微妙。基本的にはナンセンス。ナンセンスは好きだし、「雨女」もそれなりに面白いがネタに対して長さは感じた。「湖畔の愛」くらいの充実度で話が三つあったらな、とは思った。
なんでこの本を読もうと思ったかというと、MX「五時夢」で新潮社中瀬ゆかりさんが薦めていたのが文庫になったのを知ったからだ。私は中瀬さん本人についてはファンと言っていいと思うが、中瀬さんのオススメは私にはイマイチなものが多い。宮本輝「豊饒の海」シリーズ、「最後の秘境 東京芸大」。お薦め映画も中途挫折がほとんど。中瀬さんは映画においては特にハードなものを好む傾向があるので、私には門前払いになるのも多い。中瀬さんの読書量、映画鑑賞量、その消化力は私とは比べるべくもないし、中瀬さんが特に偏った好みの持ち主というわけではない。彼女のお薦めは世間でも一定の評価を得ているものばかりだが、私との趣味の相性はあまりよくないようだ。
それにしても「すべらない話」。基本的に温度差が大きくて笑えない。サラっと話してくれればそれなりに面白い話がほとんどだが、不必要に膨らませて長かったり、本人はえらく特別で面白い話だと興奮気味なことが多く冷める。
(新潮文庫 590円)
※町田康の代表作のひとつとされる作品。これはピース又吉の薦めで読んだ。
