1961年(昭和36年)黒澤明監督作品。あたしが生まれる9年前の作品だけど、モノクロ。腕が飛んだりするので、カラーだとどぎついか。若い頃「椿三十郎」と両方みて、「用心棒」のほうがずっと面白いと思ったことだけ妙に印象に残っていたのを、49歳の新年に久しぶりに見ることに。BSプレミアムで放送されたのを録画した。
ある宿場町。一帯を仕切るヤクザを二分する内部抗争が勃発。毎日死人が出る治安の悪さに通りを出歩く人もほとんどおらず、棺桶屋だけが景気がいい。対立しているのは清兵衛親分とその息子与一郎の一派と、清兵衛の一の子分である丑寅一派だ。そんな荒れた宿場町にある浪人(三船敏郎)がふらりとやってくる。飯屋の主人(東野英治郎)から町の事情を聞いた侍はヤクザ一掃を試みる。まずは腕を披露と丑寅の子分たちと正面から対決。清兵衛に用心棒として自分を売り込むところから始める。
清兵衛の妻おりん(あたしの好きな山田五十鈴)が夫ともども気弱な息子与一郎にするレクチャーがすごい。
「ばくち打ちにきれいも汚いもあるもんか。人殺し、盗人といわれるようにならなきゃ蔵は立たねえ」
「少しは人を殺してみせなきゃ、子分にも睨みがきかねえ」
「ひとり斬ろうが百人斬ろうが、縛り首になるのはいっぺんだけ」
ダンディズムとユーモア(ブラック含む)で構成されていて、今見ても全然古ぼけていないエンタメ作品。ドライな質感。上等な作品にはこれがある。
最近ではあまりもてはやされない「男の美学」を描き出すのがこの作品のテーマだ。やっぱ「男女平等」の世の中だと難しいわよね、こういう面白さ。三船敏郎は「男の美学」を体現している。腕が立って切れ者の一匹狼。言動に常に余裕がある。これ見よがしの善意なんてダサいもんは微塵もない。そのダンディズムの真価が発揮されるのは、窮地に陥った時。半死半生の状態でこそなお生き様(言動)の美学は貫かれる。というわけで他の登場人物はおおむね「男の美学」が欠落した男の見本市となる。欠落のあり様も様々。まあ、こっちのほうがよほど親しみを覚えるけど、でも「哀れなやつは大嫌いだ」って、あたしも。ほんと、ああいうのが出てくるとロクなことにならない。あのしみったれ家族(というか、しょうもないのは亭主)に30両あげちゃうなら、飯屋の親父に一両でもあげてほしいよな。タダ飯食べ続けて。
雰囲気的にはヤクザ映画というより西部劇。最後の対決からラストまでが特にかっこいい。「男の美学」が作り手(見せ方)にも貫かれている。ジブリの「紅の豚」もダンディズムを描いているが、「用心棒」は子供向けに作られてない分さらに男臭い。女子供はひっこんでな、ってあたり。まあ、傷と哀愁のあるポルコ・ロッソは三船敏郎演じるこのキャラクターより生身の人間に近い。この侍はもはや抽出したダンディズムというか、ファンタジーの域にいる。ひたすらかっこいい。
自分と対決して死んでいく仲代達矢(丑寅の弟)に三船は言う。
「こいつ、どこまでも向こう見ずの本性を崩さずに死んでいきやがった」
悪人ではあったが、他人におもねることなく、男一匹、己の生きざまを貫いたことについては男として感動と共感を覚えるといったあたりか。そういう世界観というか価値観の作品なのよ。二人が対決するシーンは画も、音楽が切り替わるところもマジでカッコいい。まあ、いい映画ってカメラはいいに決まってるわな。バシっと決まってるカメラ(構図)が多すぎる。
演出でひとつ明らかに失敗しているな、と思ったのは、司葉子が初めて出てくるところ。感傷的な音楽が流れて、仲代達也の恋人かと誰でも思うが、実は全然そういうんでないという(しみったれ家族の母親)。ありゃ失敗だろ。美意識に貫かれたこの映画において、ずいぶんテキトーにカメラワーク、演出しちゃったシーンだ。このあと三船敏郎がバシっと「面白かったぜ」って仲代に言うシーンのカッコよさに巧く流れて行っていない。
でもあれだね、そういう映画じゃないんだけど、博打がひとを、ひいては町をダメにするって読み取れないこともない。IRでかまびすしい昨今、妙なタイムリー感が。しかしまあそんなことより、余計なことは言わず、気負わず、サラリと己の信ずるところを行動に移す、という美学は男も女も関係ない。こういう三船敏郎みたいなキャラクターをみると、今の世の中のひ弱さが浮き上がる。もちろん私自身を含めて。でもあっち側に行くのはそう難儀でもないのかもしれない。もしかしたら、ちょっとした匙加減なのかも。
ちなみに「サンピン」という言葉がたびたび出てくるが、「三一」、年間の扶持が三両一分である、身分の低い侍を指す侮蔑語らしい。「おきやがれ」は「措きやがれ」。そろそろ止めろ、いい加減にしろの意。あたしはこういう今ではあまり聞かない「ならでは」の言葉調べるの好きだ。だから文字放送は、特にこういう古い邦画ではありがたい。
※若いころの山田五十鈴が全然違う役を演じているのがコチラ。