※結末までネタバレあります。注意。(6/30追記)

 熱海の海岸にある「蹴り入れ像」は現在スマホのCMでも使われているが、その尾崎紅葉の「金色夜叉」を橋本治が現代版にしたもの。読売新聞の朝刊で現在連載中だ。47年間生きてきて、初めて新聞小説を連載中に読んでいる。現代の風俗世相をふんだんに盛り込んで、70歳になる橋本氏の知力知識力に目を見張る。5月9日付で第215話だ。俗っぽい話で面白い。モトネタは読んだことない。昔昼ドラがあったのは覚えてるんだけど、見てなかったなあ。高橋源一郎がこの金色夜叉の昼ドラを見て原作を読んだら、「原作がほんとに昼ドラだった」って書いていた記憶がある。
 以下私見を交えたあらすじを綴りますが、斜め読み部分の記憶違い等々予想されます。その辺ご容赦の上お読みください。
 冒頭はモデルの鴫沢美也(宮)がIT長者の富山と出会う、”バブリー”なパーティーの場面から始まる。この「虚栄の市」的描写がくどくど長くてけっこう退屈だった(いきなり否定)。20歳もそこそこの美也はゴージャス系美女(若い時の小雪みたいなのを想像すればいいのかな? シシド・カフカみたいな感じかも。でももっと目力のないタイプっぽい)。ファストファッション全盛の現代にあっては”カワイイ系個性派”のモデルに需要が高く、モデルとしての自分に自信が持てずに過ごしていた。菜々緒みたいな感じかもしれないけど、菜々緒のような自己演出力には著しく欠けており、いわばその点においては「普通の女の子」だ。
 美也は幼い時から父の友人の遺児である貫一と暮らしていた。貫一も母親の美貌を受け継いで美男、かつ才気もある東大生。二人は(高校時代だったか)肉体関係をもつようになり、美也の両親の知るところとなる。ショックを受ける両親だが、互いの気持ちを確認してゆくゆくは、という覚悟を固める。実際のところ幼い二人に燃え上がるような情熱も覚悟もなかったが(特に美也)、二人もそのつもりで過ごしていた。
 パーティーで美也を見初めたヒルズ族的(?)大金持ちの富山は40代前半(たぶん)。美也の父親が経営するレストランの経営が芳しくないことを調べ、資金援助と引き換えに美也との結婚を申し入れる。前時代的な経営を続けていたレストランの経営は最近急に悪くなったというわけでもなく、父親は「こういう話がある」程度の言い方で美也に富山の申し出を伝えると、美也は承諾。モデルとして行き詰っていた美也は、結婚によって自分自身が変われるのではないかと自らの活路を見出し、結果貫一を捨てることに。突如美也に捨てられた貫一は富山と美也が一緒にいる熱海へGO。高価そうな指輪をしている美也を発見。
「これなんだよ」
「ハリー・ウィンストン」
「そんなことを聞いているんじゃない!」

 ってこのくだりにあたしは大笑いしました。あほかこの女。
 納得できない言い訳をされ、「ダイヤモンドに目がくらみ」とも言わず、美也に海岸でケリを入れることもなく、貫一はその足でそのまま鴫沢の家を出奔。東大も結果中退(除籍?)。あたしはほんとにガッカリした。蹴り入れてほしかったよね、ここはやっぱり。橋本先生は「現代版って考えるとケリを入れられるかどうか」って連載前にコメントしていたようなんだけどさ。
 そこから貫一はネットカフェ難民。日雇いの仕事をしながら糊口をしのぎ、地を這う暮らしを続け、東大の同級生にも姿をみつけられて酒の肴にされてしまう。この辺の描写も辛気臭くてみじめったらしいのがほんと長くて、この辺が一番「ななめ読み」してました。貫一マジ可哀そう。血がつながらないとはいえ、幼い時に引き取って長年毎日ひとつ屋根の下で暮らしていた男の子がいなくなっても全然探さない鴫沢家の面々。マジ冷たい。冷たいといえば美也。自分のことしか頭にない若い女なんてこんなもんかね? 貫一を思い出すこともなく、罪悪感もない。ほんとに淡泊。とにかく鴫沢家の面々の情の薄さはすごい。貫一の祖母とかもそうなんだけどね。ほんとに貫一、母親の記憶はなく父親も亡くして祖母さん薄情で、可哀そうなんだよ。
 貫一はやがて”ブラック企業”であるところの居酒屋でバイトを始めるが、そこから頭角を現し、社長秘書まで一気に上り詰める。両親、祖母、養父母、婚約者とすべての近しい人に死別含めて「捨てられた」貫一には、他人の感情に配慮することが根本的にできなくなっているような傾向があった。きわめて合理的ではあるが冷酷ともいうべきやり方で辣腕をふるっていると、「このままでは寝首をかかれるのでは」と怖れ始めた社長にクビを宣告される。しかし基本的には貫一に目をかけ、才気に愛情すら注いでいた社長は自分の事業を脅かさない限りは、という条件付きで事業資金のアテとして「つなぎ融資の女王」赤樫満枝を紹介する。
 満枝は40代。満枝こそ若いころ父親の「借金のカタ」として、30歳以上年上の闇金と結婚していた。満枝が後妻になるか親父が自殺して保険金でまかなうかの二択になるほどの差し迫った状況だった。満枝は父親を救うためと自ら進んでおぞましいおっさんと結婚。美也は富山に嫌悪感はなかったので、二人は似ているようで似ていない。満枝は自分を救うために闇金の仕事を覚え、「つなぎ融資」という「表の商売」に事業を「発展」させる。老いた夫は既に車いすで施設で過ごしていた。そこにかつての愛人でもあったブラック企業の社長から美青年が紹介されてきた。貫一は満枝に事業計画を披露するが、担保になるようなものはなく、「投資家になれ」という。「話に乗るか乗らないかはあなた次第」。唖然とする満枝だが、投資家というさらに「日の当たる」立場と、貫一の堂々とした態度等々に魅了され、本来なら即却下の話を切れない。むしろ「東大中退の若い美男」には収まらない貫一の魅力に断ち切りがたい引力を感じる。なんせ裸一貫、「下層」を這いまわって天涯孤独でここまでたどりついた貫一だ。捨てるものはなにもない。おまけに育ちそのものは悪くなく、そもそも美男。雰囲気から何から、その辺の若造と一緒のわけがない。
 一方美也は当然のようにうら寂しい結婚生活を迎えることになった。富山に嫌悪はないが愛情もない。こういういきさつでスタートしても恋愛関係にひとはいくらでも陥れるとは思うが、美也はそうならなかった。富山は若く美しい自慢の妻を「大切」にし崇め、外、つまり銀座の高級クラブのホステスですらない、キャバクラの女と浮気を重ねるようになった。富山が居心地のいい世界、センスはそもそもそのレベルの「成金」だ。その辺「趣味のいい」美也と相容れるはずもなかった。美也は「IT長者のセレブ若妻」になったせいで余計に年齢相応のモデルとしての需要から外れたが、そもそも問題なのは自己プロデュース力の欠如だ。

 

 と今のところこんな感じです。モトネタの「金色夜叉」は結局完結することなく作者が亡くなってしまったようなので、橋本先生がどう決着をつけるか、本当に楽しみだ。
 関係ないが、橋本氏と村上春樹氏は同世代。今頃知ったが、なんか不思議な感じ。二人ともあたしが高校の時に知った作家で、いまに至るまでずっと活躍しておられる。あたしが高校のとき橋本氏は桃尻語訳枕草子が話題になり、村上氏の「風の歌を聴け」とか「ピンボール」の文庫本がクラスで貸し借りされていた。「ノルウェイの森」は大学の時新刊本で買い、ガッチリはまって繰り返し読んだ。うろ覚えだが、上巻だけ誰かに借りて、結局上下買ったような気がする。以来二人とも、愛読者とまではいえないが途切れず読んでいる。橋本さんのほうは何年かに一冊程度だけど。てなわけで来週は村上氏のエッセイ(?)について扱います。

追記: 6/30 完結しました。打ち切りになったんじゃないかってくらいガッカリな結末。このペースの展開なら、あと半年は連載するんだと思っていた。聞くところによれば本家「金色夜叉」では貫一が高利貸になったり宮が富山の子供を死産したり。あたしはてっきり橋本現代版も美也と貫一が愛憎と欲望と「現代」にドロドロまみれて険しい人生を生き抜く話だと思っていたのに。 美也と再会した貫一があっさり自殺。なんじゃソレ。これ本当に打ちきりじゃなくて? そもそもこの予定? こんなところで自殺するなら、「下層」を這いまわってる頃に自殺するほうがまだわかる気がするし、「下層」を潜り抜けてゼロから作った店も軌道に乗り始めて、することあるのにアホ女と再会してあっさり自殺。なんだかなあ。つまらん。当初からあった「いろいろ」がこんな着陸点のためにあったなんて、けっこうな肩透かし。やっぱ葛藤や後悔、恨みを抱えてどう生き抜くかがドラマだよなあ。これなら何があっても自殺はしそうにない満枝の人生のほうがドラマの軸として面白かった。だってあらすじを短く言うと、「両親と早くに死に別れた可哀そうな才気ある美少年が、養父母にも満足に愛されず、その娘である恋人にも捨てられて、貧乏から自力で這い上がって経済力をつけ始めたところで、しょうもないかつての恋人が押し掛けてきて再会、ショックで自殺」だよ? これなら「父親の借金のカタにほぼ無理やり結婚させられた若い女が、貸金業の仕事を覚え、30歳年上の夫に邪険にされることなく隠れて愛人と次々と交流。その中には時代の寵児たるIT社長たちも多数いた。女も40代になり事業も安定してきたころ、20歳前後の才気ある美青年が投資計画を持ち込んできた。女は息子といってもいいような年齢の青年に抗い難い魅力を覚えるが、彼には忘れられない元恋人がいた。その元恋人は自分の元愛人の妻の座にいたが、当然女はその元愛人がどんな男であるかを知っており、結婚生活も想像がついた」ってなほうが面白くない? 自殺ネタとか抜きで。どうせ自殺するなら、美也にもっと深い魔性の魅力がほしかったよな。意志薄弱なままでいいからさ。