日本でおそらく唯一であろう、女性天皇でなおかつ大物政治家だった持統天皇の生涯を描いたこのマンガ。連載開始から30年。いよいよ次巻23巻で完結だそうだ。途中特に中だるみや不必要に引き伸ばしたと思われる箇所もない。「ガラスの仮面」作者に見習ってほしい。
この22巻では既に上皇になっている主人公・讃良皇女(さららのひめみこ。後の持統天皇)とその周囲の皇族たちを描いていく。歴史的に大きな事柄としては遣唐使派遣、大宝律令制定が含まれる。
このマンガ、本当に読み応えのある立派な作品だ。絵が古風な劇画チックで、イマドキの若者にはとっつきにくい部分もあるだろうが、歴史マンガ好きなら是非お勧めしたい(歴史マンガ好きなら既に必読マンガのひとつか)。作品全体、「愛って」「男って」「女って」と登場人物がよってたかって個人的体験を一般化するのは正直ウザい。現実生活でも、「男ってさ」「女ってさ」とかってしょっちゅう言うとバカみたいじゃないですか? そんな「玉に瑕」はありつつも、国づくりという大きなテーマに漫画家・里中満智子が挑んだ力作だ。それにしても「愛」とかって、いつの時代から日本人が使うようになったんだろうか。明治期以降のような気がするが? キリスト教文化の言葉でないのだろうか???
この作品は讃良の子供時代、大化の改新からスタートし、様々な男女の生き様と苦闘を史実を踏まえて描き出していく。いわゆる「史実」はきちんと押さえながら、「史実」にない部分を想像力で補って立派なエンタテイメント作品に仕上がっている。非情な父・天智天皇を否定しながらも、心から寄り添い、人生をともに闘い抜いた夫・天武天皇より、父に似た政治家として生きざるを得ない讃良の人生が綴られる。
私が一番印象に残っているのは大津皇子(甥)のクーデターに関するくだりだ。讃良は病床にある夫・天武天皇からたったひとりの息子(草壁)を皇太子にするという約束をとりつける。しかし国づくりの途中にある大和朝廷を考えると、適性においてまだ迷いのある天武天皇は、もうひとりの息子、大津に皇太子はお前だ、と伝えるが、その翻意を政治的右腕である皇后讃良に伝えることなく亡くなってしまう。若く血気はやる大津は自らこそ正統な皇位継承者と草壁を押しのける決意するが、実は押しのけるべき本当の相手は野心薄く繊細な草壁ではなく、実質的権力者の皇后であるという事実を見落としている。実績・実権において雲泥の差がある皇后は当然大津を排斥。しかし皇太子である草壁皇子は、自分が皇太子の地位にいるがゆえに血縁でもある幼馴染の大津を実母が処刑するという事実に耐えられない。讃良は当初から「自分のひとり息子こそ皇太子」と親バカ的思考の持ち主ではなかったのだが、様々な経緯と葛藤を経て「息子草壁が天皇の職務を全うできるよう、国の組織体制を整える」と人生を賭けて闘ってきた。そこには誰が天皇の地位についても国が安定して機能し、政情不安が起こりにくくなり、外国にも対抗できる強力な中央集権国家を作って民の生活を安定させる、という夫と共有してきた大義もある。そうして自分の姉の息子である大津に自死を命じる「政治的決断」まで乗り越えたのに、当の草壁が自ら人生そのものを降りてしまう。
このへんの登場人物たちの言動が、実に無理なく「史実」をなぞっていく。作者の里中満智子氏が秀吉かなにかを扱った歴史バラエティ番組に出演したとき、「性格こそが運命だ」と言っていた。このクーデター事件に安易な悪役などはひとりもいない。それぞれがそれぞれの立場で常に「最善」と思える選択をし、必死に生きている。浅薄な意味での私利私欲はない。なのに悲劇は不可避な出来事として起こる。
てなわけで絶賛調で終始してしまったが、人間ドラマ以外にも、様々な要素を盛り込んだ堂々たる歴史エンタテイメント作品に仕上がっている。私はNHK大河ドラマの原作にふさわしいとすら思っている。
★今月のテレビ★
私の好きな番組、NHK「100分de名著」の9月のテーマは「古事記」です。ちょうどこの22巻で古事記編纂についても取り上げられています。番組サイトはコチラ。
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※「天上の虹 最終巻第23巻」はコチラ。ただし、記事にほぼ内容はないです。この22巻の記事をもって、私のこの作品の”感想文”とします。