「大殺界」もいよいよ大詰め。仕事の高ストレスにまんま三年近く悩まされている夫に”リフレッシュ休暇”が訪れた。50歳の年次に二週間休みが取れるそうだ。給料をもらいながらこの長期休暇。最近予定外の大きな出費があったりで、私自身は実際そこまでバケーション気分ではなかったのだが、
「30年も働いた・・・」
 とストレスにあえぎながらつぶやく夫にはまさに「リフレッシュ」休暇と、気持ちを切り替えてご相伴させてもらうことにした。「天中殺」とか「空亡」だと二年のハズなんですが、夫はキッチリ三年目だ。
 夫の周囲では夫婦で海外旅行をしたり、温泉めぐりをしたりとそれぞれのようだが、夫は近場でゴルフをしまくる、というのを選択した。海外は二人とも特に行きたい場所がなかったし、私は老猫を置いて長期外泊したくなかった。うちの猫はペットホテルに預けると食べなくなってしまう。
 というわけで最初のイベントは夫のみ近所のお友達と八ヶ岳ゴルフ合宿だったのだが、台風19号が直撃。あえなく中止となった。占い好きの妻としては「逆境期」の迫力に感嘆した。ちなみにマツコ・デラックスも「大殺界」の最中だが、現在そのキャリアの最盛期ではないかと思われる売れっ子っぷり。この時期に才能が大開花するケースがマツコに限らずあるようだ。しかし占い好きの私が世の中の有名人をチェックする範囲では、やっぱり「大逆境」になるケースのほうが比率的にはずっと高い気がする。
 話がそれた。50歳のロングバケーション、イベント第二弾は「順境期」の私がいたせいか、計画通りに出発できた。夫のリクエストで福島県は裏磐梯の五色沼に紅葉狩りへ行くことにした。実は私は五色沼なる観光地をまったく知らなかったので、夫になぜ敢えてここに行きたいのかと聞いたところ、
「よく知らないんだけど、昔から気になってた。でもどんなところだか全然知らない」
 朝横浜を出て昼食は五色沼入口近くのイタリアン「イル・レガーロ」へ。自家製パン、生ハムのミニサラダ、ドリンクがついた1500円程度のパスタランチを食べたが、同じ価格帯の都内のイタリアンの平均値を確実に上回っている本格派だった。イタリアンの好きな方にはオーソドックスに納得できる味だと思う。
 いよいよ五色沼散策。色の違う沼が五つあるのかと思っていたら、五色ない代わりに(?)五色沼湖畔群としては30余り沼があるそうで(裏磐梯北側全体では300余りもあるらしい)、探勝路として設定されている3.6キロ程度のコース上では10個程度が観察できる。片道1時間15分程度で、出口には裏磐梯駅があり、入口と出口はバスで外周できる。五色沼入口には駐車場とビジターセンター、バス停があり、このバスが平日というのもあって本数がかなり少なく、私たちは駐車(無料)したのち、30分ほどバスを待って出口に行き(バスで10分弱)、探勝路を歩いて車のある入口に戻ることにした。
 10月16日に訪れたのだが、紅葉はそれなりに見応えはあるもののまだピークの手前。場所によっては真っ赤な紅葉もあるが、まだまだ緑濃い木も多かった。それでもなかなか趣き深い探勝路で、シダが生い茂り、色づいた木々に囲まれた空間は寒いのとは違ってしっとりと冷え、歩くほどに探勝路の外の空気との違いをはっきりと感じた。マイナスイオン立ち込める(?)中を歩いてくと、どんどん肌が潤っていき、身体の芯がほぐれていく。PMSでホルモンバランスが乱れがちな私は夫より敏感だったと思う。昔はそんなことなかったのに、近年台風が近づくとてきめんに頭痛がする。生理前の不調と台風が重なるとけっこうしんどい。そんな台風経過後の私の身体の芯がどんどんほぐれ、ぐいぐいと副交感神経が高まっていくような、気持ちのよさが満ち満ちてきた。
 肝心の沼の色だが、青沼は本当に青かった。これはキレイだ。湖水に含まれるカルシウムと硫酸イオンののせいで青く見えるそうだ。他の沼も基本的に青か緑だ。赤沼はちっとも赤くなかった。以前は沼を赤く見せていた鉄やマンガンが近年減少しているそうだ。たまたま一緒に赤沼にいた年配男性の話によると、30年前ははっきり赤かったらしい。地球環境の変化が、などと想像するが、この湖畔群自体できて百年も経っていないそうだ。
 沼地ということもあり、足場は場所によっては多少ぬかっているし、アップダウンも所々ある。特に平均以上の体力が必要だとは思えないし、年配の観光客も多いのだが、それなりにはキッチリ疲れる。スニーカーで充分だが、トレッキングシューズだと場違いというほどでもない。ヒールは当然、パンプスもやめたほうがいいだろう。上高地なんかの散策路よりははっきり「トレッキング」だ。バスがないからと同じ道を往復するのもナシではないが、復路は紅葉狩りよりトレーニングになりそうだ。
 夫と互いに「肌がしっとりだね~」といいあいながら1時間20分ほどかけて入口に戻り、一般道に出るとすぐ空気がもとに戻った。不思議なものだ。しかし44歳更年期初期と思われる身体にフニャフニャと芯がほぐれるような気持ちのよさは濃く残った。この日は磐梯熱海温泉のホテルに泊まった。夕飯にはいつものようにアルコールを摂取したら、さらに身体がグニャグニャになっていき、夕飯後には当初計画していた温泉にも入らず、8時には歯も磨かずに寝てしまった。これは私には普段でも旅行中でも珍しい。どんなに疲れていてもある程度の時間までは寝るに寝られず、歯を磨くのもしんどいほどの眠気に襲われることはない。五色沼探勝路のマイナスイオン効果としか思えない。思い返せば、森林浴的なことを随分していなかった。そもそも登山が苦手だ。こんな登山嫌いの私のようなひとにも、五色沼探勝路は薦められる。翌日は同じく磐梯熱海のゴルフ場でコースに出た。ゴルフ場も紅葉美しい磐梯山系に囲まれた気持ちのよい空間で、体調も良好に楽しめた。更年期に森林浴は大きな癒しを与えてくれるのかもしれない。ちなみに夫も五色沼散策のあと、
「なかなか(気分は)いい感じよ」
 と言っていた。私と違って食後にしっかり温泉につかったようだが、9時頃には寝入っていた。仕事のストレスにあえぐ50歳のおじさんにも、相応の心地よい疲れと爽快感はもたらされたようだ。