そもそもベネズエラって… チャベス政権以後の経済について
前回の記事をアップして間もなく、
アメリカがベネズエラを攻撃。
マドゥロ大統領とその夫人を捕らえて米国内へと連れ去りました。
どうやら、数か月前から「クリスマスを過ぎたら」ということだったようです。
「こんな暴挙が許されていいのか!」という声があるもの当然で、
国家の主権を踏みにじる行為ではあります。
実際、ベネズエラのアメリカ向け麻薬は全体の数%程度で、
コカインの主要生産国でもなく、
最も被害が大きいフェンタニルにもほとんど関与していません。
一方「ベネズエラ国民は喜んでいるじゃないか」というのは、
一部では事実なのですが、本当に武力を以てマドゥロを排除することが、
国民の総意として認めているのかどうかはまだわかりません。
たしかに、国内からそういう声は多いようですし、
国外に出ている国民の多くは快哉を叫んでいます。
しかし、それが総意といえるかどうかは疑問で、
現時点で、それを確認する方法はありません。
さて、ベネズエラの経済状況を確認しますと、
IMFなどは経済成長率を0.2%~0.5%程度の低水準と見込んでいて、
マドゥロ政権は7%の成長を主張していたのですが、
現実とは大きく乖離している状況でした。
今年のインフレ率についてIMFは270%と予測。
通貨ボリバルの価値は下がるばかりです。
ベネズエラの歴史を見てみますと、
ここ150年ほど、クーデターが起きては政権が変わり、
クーデターが起きてはまた政権が変わることを繰り返しているようです。
不安定さの根底には、貧富の格差があるのでしょう。
現在の体制を築いたのはウゴ・チャベスで、
彼は空挺部隊の中佐でしたが、1992年にクーデターを試みて失敗。
しかし、降伏の際の会見が貧困層の支持を集め、
恩赦で釈放されていた1999年に大統領に選出されます。
彼は自身をマルクス主義者、毛沢東主義者としていて、
アメリカと対立していきます。
2002年に打倒チャベス政権のクーデターが起きますが、
軍や国家警備隊が寝返ったことで失敗。
クーデターの裏には米CIAの支援があったとして、
反米の姿勢をより強固にしていきます。
2006年、ニューヨークの国連総会でジョージW.ブッシュ大統領を悪魔になぞらえ、
2007年には国内の石油産業を全面国有化。
油田開発は米企業の資本が基礎になっていたため、
アメリカとベネズエラの亀裂は修復不可能となります。
チャベスの死後、跡を継いだのが副大統領だったニコラス・マドゥロでしたが、
原油価格の暴落し、経済では失政が続き、
ベネズエラは貧しくなるばかりでした。
マドゥロの失政はすさまじく、2016年に経済破綻しています。
「麻薬を売ることしかできない国」とまで言われるようになってしまいました。
関東学院大学経済学部の中泉教授のnoteがとてもわかりやすいのですが、
その図をご覧ください。
他国で10ドルで売られていた小麦をベネズエラの役人が20ドルで買い付け、
差額の10ドルはその役人や現地の役人と商売人の懐に入ります。
その小麦はベネズエラで3ドルで売られ、
差額の17ドルはベネズエラ政府が補填。
国産小麦の価格は5ドルであり、
3ドルの価格では国内農家が営農できないので廃業。
ただ、隣国などでは10ドルで小麦が売られており、
これを買って国外で売るようになります。
また、小麦の輸入では名目上の輸入量と実際の輸入量に差を設け、
その差額の外貨で利ざやを稼ぐという汚職が横行しています。
当然、市場には小麦が足りない状況が続き、
「麻薬を売ることしかできない国」になっていったのでした。
2018年の大統領選挙は、事前に有力な野党政治家が立候補できないようにして、
国民の投票を監視。
自身に投票しない国民には食糧を配給しないというなり振り構わない選挙でした。
当然、大統領に再選されるのですが、数々の不正にアメリカはもちろん、
日本もこの選挙結果を承認していません。
翌年、野党指導者でベネズエラ国会議長のフアン・グアイドは
先の大統領選挙は無効だとして、暫定大統領に就任したと宣言。
大統領選挙やり直しを行うとしましたが、
これはマドゥロ派の最高裁判所により阻止されました。
当時のトランプ大統領はグアイドの暫定大統領就任を承認。
マドゥロは米国と断交することを発表しましたが、
トランプは「グアイド政権との外交関係を維持する」としていました。
グアイド政権を承認したのはアメリカのほか、
カナダ、EU諸国、コロンビア、ブラジル、ペルー、チリ、
オーストラリア、イスラエルなど、50か国以上。
日本は当初、暫定大統領就任を承認する公式声明は出しませんでしたが、
後に日本も欧州諸国と連携して民主的なプロセスを促す立場を表明しています。
一方、中国、ロシア、キューバ、イラン、トルコ、北朝鮮などは
「マドゥロ大統領」を支持しています。
両陣営が対立していましたが、グアイドがアメリカに亡命したことで区切りとなります。
2024年の大統領選挙の世論調査で、野党統一候補に敗北することが確実視されると、
マドゥロは開票が終わっていない時点で、自身が当選したと発表。
国際的には自称大統領で、国際的な経済制裁を受けることとなり、
ベネズエラはより一層貧しくなるのでした。
それまでもアメリカはマドゥロに懸賞金をかけていましたが、
2025年8月には、それまでの2倍となる5000万ドルに引き上げ、
12月、国連安保理でアメリカが
「マドゥロ政権は麻薬テロ組織の首領だ」
と発言することとなります。
貧富の差はあったものの、1970年代まで産油国として裕福だった国です。
チャベス政権やマドゥロ政権がそれを再分配すべきだったのですが、
ただ、食い潰し続けてきたのが今のベネズエラです。
倒されて然るべき腐敗政権なのですが、
実際に軍事行動により排除していいものかどうか。
マドゥロは麻薬ビジネスに深く関わっていたわけではなさそうですし、
マドゥロがいなくても、麻薬ビジネスは続くでしょう。
常識となっている役人たちの腐敗は改まるでしょうか。
今後、この国の人たちが
このような状況から抜け出すことができるのか、
まだまだわからない状況が続くかと思います。
日本としては、トランプ政権のこの軍事行動を非難できません。
台湾有事への備えなど、中国への対応にはアメリカが欠かせないからです。
当然、支持もできません。
だから、高市総理も明言を避けているのです。
一方、個人的に気になるのは、
どうして、ここまですんなり米軍の作戦が成功したのかです。
アメリカと戦って勝てるはずはないベネズエラですが、
大統領の周辺以外では、低レベルの抵抗しかしていません。
ベネズエラ軍にサボタージュがあったかどうかを知りたいです。
また、ベネズエラ軍はロシア製の装備に、
中国製のレーダーで防備していたようですが、
ろくに活躍していないように見えます。
これがアメリカのインテリジェンスの力なのか、
特に中国がどう感じているかが気になります。
ロシアはシリアのアサドを見捨て、
今度はベネズエラのマドゥロを見捨てました。
ウクライナに侵攻しなければ、
このようなことにはならなかったでしょう。
世界全体では、
国連が国際法による秩序の維持に役立たずである今、
「力による現状変更」は続いていくかと思います。

