総合診療医 ドクターG 「肩こりと吐き気」 | テレビ番組 時事ネタなど書いていきます。はい。

総合診療医 ドクターG 「肩こりと吐き気」

今回のドクターGは福井大学医学部附属病院総合診療部の林寛之教授。

総合診療医 ドクターG 「肩こりと吐き気」

どこかでお顔を拝見した事があるはずなんですが…
きっと、他の番組でお見かけしたのでしょう。

福井県のサイトの

≪救急医・家庭医・総合医をめざすあなたへ≫ 救急のプロ 林寛之先生による指導! 「24年度 救急医・家庭医養成キャリアアップコース」後期研修医募集!!
http://www.pref.fukui.jp/doc/iryou/iryojyujisya/20sogokenshu.html

には、先生のこんな画像がありました。

福井大学医学部附属病院総合診療部 林寛之教授

クリスマスにはこのような姿で患者さんを診られたりする先生だそうです。

福井大学医学部附属病院総合診療部 林寛之教授


先生の専門は救命救急、ERです。
救命の現場では、あらゆる診療科の病、
症状の患者さんを診る事となります。

時には少ない情報から、その病名を特定していかなくてはなりません。
時間との戦いで、検査が充分に行えない情況もあるでしょう。
しかし、先生は仰います。

検査が多い方が見逃し率が高いんですよね

それよりもまず問診こそが大切で、
そして、生命の維持のために動く事なんだそうです。



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患者さんは杉田誠さん(48歳 172cm 70kg)。
症状は肩こりと吐き気ですが、

この1週間、体のあちらこちらにいろんな症状が出たり消えたりして…

と訴えます。
吐き気では腹痛もあるそうです。

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私は妻の父が残した用品店を営んでいます。
妻が跡を継ぎたいと言い出したからで、
私は5年前に会社を辞め、妻と二人でその用品店を始めました。

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しかし、商店街からは客足が遠のくばかり。
店を継ぎたいと言っていた妻は、
近所のレストランでパートをしています。

結局、私一人がこの店を切り盛りすることになったのですが…
正直なところ、この商店街で店を続けていくのは難しいと考えています。
だから、郊外へ店を移転しようと思っていたんですが、
中学生の娘は中学の友達と同じ高校へ行きたいらしく、
妻も生まれ育ったこの街に住み続けたいというのが本心で、

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この街を出ようと考えているのは、
私一人のようでした。


この朝、強い肩こりを感じました。

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そして、吐き気です。

私は病院へ行くことにしました。
内科です。

その内科では、疲れやストレスが原因だとして、
薬が処方されました。

この1週間でおかしいと感じたのは、
風呂に入ってもなぜかすぐに寒気を感じたことです。
熱はないようなのですが…

朝起きると、妻と娘が私の顔を見て驚いたことがありました。
私の右の頬にひっかき傷があったんです。

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たしかに指でかいた記憶はあるんですが、
こんなに酷くなるまでかき続けたはずはありません。
虫に刺された訳でもないようですし。

妻の勧めで、いろいろな科がある大きな病院へ行ってみました。
まずはこの顔の傷を診てもらおうと、
皮膚科を受診しました。

診断では、特に問題はないと言われましたが、
この数日間のことを話すと、
脳神経外科の受診を勧められました。
そこではCTスキャンという検査を受けましたが、
私の脳からは異常が見つかりませんでした。


そして、今日、店先で仕事をしていると、
1週間前と同じような肩こりと吐き気が。
そして、足がフラフラしてきたんです。

私は近所の人たちに助けられました。


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それで、夜間の救急外来へ来られたということですが、
交通事故か何かで体を強くぶつけられたというような事はありませんか?

ありません

体温36.3℃ 血圧131/84 脈拍 72/分

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ここで研修医4人の仮の診断を尋ねます。

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不安定狭心症
急性心筋梗塞
十二指腸乳頭部癌
椎骨脳底動脈解離


と4様の診断が出ました。
ここからがカンファレンスになります。

不安定狭心症だと考えた彼女は、
吐き気や肩こりを心臓からの放散痛だと推理しました。
放散痛は、本来の病変部位ではない部分に痛みを感じることで、
この場合は不安定狭心症が肩や吐き気を生み出したのではないかと。

急性心筋梗塞と考えた彼は、
肩こりと吐き気に加え、腹痛も訴えていること、
その間にある臓器、心臓を疑いました。
そして心筋梗塞のリスクを高める
喫煙の習慣からもその可能性を考えさせます。
なお、不安定狭心症も急性心筋梗塞に移行しやすい病です。

林先生はこの2人の考えに対して、
とてもハッピーだと仰いました。
これらの症状からは外れがちな心臓、
まずは命に関わる心臓の病気を
優先的に疑ったことを評価されたのです。
これは救命の鉄則なんだとか。

十二指腸乳頭部癌と考えた彼女は、
吐き気が出たり消えたりする点に注目、
そして、顔のかゆみ、
これらが十二指腸乳頭部癌の症状だと。
膵液と胆汁が出る部位が十二指腸にはあり、

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そこが乳頭状になっているので、こう呼ばれる訳ですが、
ここが詰まり胆汁が溜まるようなことがあると、
吐き気も起こるし、かゆみも出るんだそうです。

椎骨脳底動脈解離だと推理した彼は、
症状が出たり消えたりすること、
そして目まい、肩を押さえた場所から
この病名だと考えたそうです。
椎骨動脈と脳底動脈は、心臓から脳に血液を運ぶ血管で、

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このいずれかに問題があると推理しています。
なお、解離とは血管壁が裂けることを指します。


ここから吐き気と肩こりからさらに考えます。
すると、これだけの病名が出てきました。

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既出の4つを加えて、ここから、先週と同じように、
問診に合わないものを除外していくこととなります。

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患者さんの診察を続けます。
ドクターGは奥で経過を見ながら話を聞きたいと言っています。
立って歩けますか? と患者さんに尋ねます。

歩けます。大丈夫です。

と言ったものの、よろけてしまいました。

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右側に…。


医師は肩の痛みはどのような痛みだったかを訊きます。

右の肩から首の付け根にかけて、
ぐぐっと掴まれるような初めての痛みでした。


でも、その2日後の定休日には

テニスが出来るようになり、
あの苦しみが嘘のようでした。


しかし、その翌朝、

左腕にピリピリと痺れるような感じがありました。

妻がテニスの疲れだと言っていて、
私もそうかと考えたんですが、

よく考えてみると、テニスであれば右腕に症状が出るはず。
なぜ、左腕なのか、考えると不安になりました。
私は近所の整形外科へ行き、首と腕のレントゲンを撮りましたが、
そのどちらにも異常はないとのことでした。
それ以来、左腕には感覚がありました。

そういえば、お風呂に入った時、
体が温まらないような感覚がありました。
そこで翌日のお風呂はお湯の温度を上げて入ろうとしましたが、
右足を入れた瞬間、飛び上がるほど熱く感じたことがあります。


ここまでを聞いて、医師が用意したのは1本の試験管。
何か透明な液体が入っています。

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これで病名が判るそうです。

患者さんに持ってもらいます。
左手で、そして右手で。

熱いですよ、これ。

右手で試験管を掴んだとたん、
彼は熱いと訴えました。

病名がわかりました。

どういう病気なのかを訊く患者さんは右頬をかいています。

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ドクターGは答えます。

それは、あなたの顔に書いてありますよ。


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これで全てのビデオが終了しました。
これからが最終診断となります。

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表現こそ違いますが、4人とも、

ワレンベルグ(延髄外側)症候群

を挙げています。

研修医たちが注目したのは温痛覚の異常です。

診察で持ち出した試験管の中身は熱いお湯でした。
患者さんは左手ではそれに気づかず、
右手の時には熱い事に気づきました。
そして、顔のかゆみ。
痛いと感じる神経と、熱いと感じる神経は同じです。
そして、かゆみもこの神経に支配されています。
刺激が強いと痛みを感じ、弱いとかゆみになりがちです。

痛みに対する感受性が鈍っていて、
傷つくまで気づかずにかいてしまっていたと考えられます。
そして、右のほほとは逆の左手足に、
温度に対する感覚異常がありました。

この温痛覚が鈍くなるのがワレンベルグ症候群の特徴です。
これは、脳と体を結ぶ神経の伝達経路である
延髄に障害があることを意味します。

ただ、

ワレンベルグ(延髄外側)症候群

は、症状の説明をしているのみ。
疾患は何でしょうか?

1回目の鑑別からそこまで考えていたのが、

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この彼だけでした。

しかし、温痛覚異常の他の可能性として、脳梗塞が示されました。
さらに、脳梗塞では説明できない症状もあります。

突然、出たり消えたりする症状です。

病院の廊下では、よろけて歩けなくなりました。
この時の患者さんには何が起こっていたのでしょうか?

小脳症状

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彼女から小脳症状という言葉が出ました。
これには、ふらついて歩きにくかったり、吐き気、めまいなどがあります。
頭の後ろにある小脳に問題があると、
平衡感覚に障害が出ます。

なぜ、症状が出たり消えたりするのでしょうか?

TIA

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彼からTIAという言葉が出てきました。

TIA(一過性脳虚血発作)は脳梗塞の前段階だと考えられ、
脳の血管が血栓により詰まると、症状が現れるものの、
血栓が溶けてしまうと、症状は消えてしまいます。
このように何度も起こるようであれば、
血管に重大な問題があるものと考えられます。
その血管の問題が、解離なのではないかというのです。

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ここまで検討した結果を総合します。
起こりえないものを除去した後、
残るのは椎骨脳底動脈解離ですが、
脳底動脈で解離が起こると、
命に関わる激しい症状が起こっているはずです。
つまり、問題があるのは椎骨動脈だということになります。


以上、病名は

椎骨動脈解離

でした。

椎骨動脈解離とは、椎骨動脈に起こった解離により、
詰まっていた血の塊がその先の脳の血管へ一気に流れ出し、
その血管を詰まらせます。
詰まれば症状が出て、
消えれば症状が消えるということを繰り返していたのでした。
今回の症例では、高度な検査を行ってもその発見は難しいとのことで、
丁寧な問診を以てこそ、はじめて発見できる疾患なんだそうです。

この患者さん、杉田誠さんは血液の流れを良くする薬で回復したとのこと。



林先生から研修医たちへのお話です。

救急の現場というのは、
病気のせいでだんだんと寿命だなあという時間に余裕のある場合と、
急にボンッと死ぬ場合と、全然違いますよね?
患者さんが亡くなるっていうことは、
朝元気なところを家族は見ている訳なんですよ。
ええーっ、なんでこれで死ぬの? となる訳。
こんなこと、ある訳がないと否定し、次に怒りに変わるんですよ。
違う病院なら助かったんじゃないか?
違う医者なら助かったんじゃないか?
必ず言われます。
でも、それは正常な悲嘆反応。
それは正常なんだぞって、受け止める覚悟を持って下さい。

総合診療医 ドクターG 「肩こりと吐き気」

今、目の前で亡くなっていった患者さん、
と、合わせてその家族が新しい患者さんが発生してるよ、と
考えないといけない。
家族は新しい患者さんなんだから、
あの時、朝、呼び止めなかったら、
出勤時間がずれて、事故に遭わなかったんじゃないかとか、
昨日、喧嘩しなきゃよかったとか、
必ず後悔の念がある。
きちんとそれを受け止める、
というのが、我々の大事な仕事なんですね。



ねてしてタペ