『ダーウィンが来た！生きもの新伝説「キジオライチョウ」[別動画付き]』

今回の番組では、北米ロッキー山脈東部に広がる
標高2000mの大平原に暮らすキジオライチョウです。

ご覧のように、空気で胸を膨らませ、
奇怪な音を出して歩いています。

これは平均、1分間で6回、
それを朝から3時間続け、
3ヶ月の繁殖期間ですから、
合計で10万回近く胸を膨らませて音を出している勘定になります。

この行動は、まず他のオスに対する縄張りの主張、
そして、メスへのディスプレイです。
この動画では、1分過ぎあたりからメスの姿が見られます。

全長はオス80cm、メス55cm、
キジオライチョウは雌雄異型、
こういう極端な大きさも姿形も違う雌雄異型の種の場合、
例外なく、少数のオスがモテ、
多数のあぶれオスが存在しています。

キジオライチョウの繁殖スタイルは特徴的で、
数百のオスが集まり、集団求愛場(レック)を形成します。
その内部に、それぞれが2m四方ほどの縄張りを主張、
そして、この縄張りはレックの中央ほど、
密集しているようです。

メスが常に目指すのは、
レックの中央にいるオス、マスターオスです。

このように、マスターオスの周囲には、
メス全体の8割が群がります。
このレックにおいて、
他のオスは眼中にありません。

1羽のオスしかモテないのに、
なぜ、オスたちは集団を作るのでしょうか？

ひとつには彼らが住む環境には
開けた場所が限られているため、
メスに見つけてもらうのに都合がよい場所はあまりないこと、
そして、オスが集まる事自体が、
メスたちを引き寄せる効果を生みます。
しかし、とはいっても、モテないオスは致し方ないのですが…

メスたちが争って交尾相手に望むマスターオス。
当然、その座は常に狙われています。

レックの中心部ほど、縄張りの密度が高く、
マスターオスの縄張りに隣接しているサブオスから
いつも攻撃を受けています。

マスターオスが交尾をしている隙に、
縄張り内に侵入する者、
また、交尾しようとする者、
それらと戦っていると、
他のオスがやってくるなど、
マスターオスは楽ではありません。

さらには、自分が先に交尾すべく、
別のメスに乗りかかり、妨害を図るメス、
それをマスターオスが押しのけていると、
また別のオスが…

このように、その座を勝ち得て、
維持できた者の遺伝子が残されていくことになります。
何しろ、次代の子供たちのほとんどは、
マスターオスの血を受け継いでいるんですから。
だから、この習性は代々続いていく訳です。

ここまで見てきて、私はこの高地の平原には、
彼らの天敵はいないのかと思っていました。
開けた土地で、目立つ行動を取り、
そもそも、オスのキジオライチョウの体は、
ひと目で空を飛ぶのが得意ではないことがわかる程です。

でも、イヌワシなど、
天敵は多数いるみたいです。
それなのに、このように生存に不利な形態や生態を
進化させてきたということは、
如何に激しい淘汰圧が働いていたかが伺えます。
もちろん、それは性淘汰ですね。

若いオスは、レックにやって来ると、
まずはレックの外周に縄張りを設けるしかありません。
次の年、生き残っているオスは半数、
なんと半数しか生き残っていませんので、
レックに隙間が生じます。
そのぶん、若いオスは中央に近づくことが出来るわけです。
そして、サブオスの位置に辿り着けば、
マスターオスの座も夢ではありません。
そこまで生き残ってきた強い生命力を持っている訳ですから。

半分しか生き残らない。
もしも、キジオライチョウのオスが、
メスのような姿であったなら、
もう少しマシに空を飛べるでしょうし、
生存確率はより高くなるはず。
それでも、あの姿なのは、
やはり、メスの選択の結果、
あの形態をさらに顕著化させる遺伝子が生き残ってきたのでしょう。