世界は楽しいってさ。
真っ暗闇じゃないってさ。
アルバムplaylistのリード曲、ジャンプの歌いだしです。
少し冷たく寂しい印象のイントロで始まるこの曲に、少し冷めたような歌声が風景を描き出します。楽しいはずの世界。光があるはずの世界。真山りかがいくらか気怠く解き放つ歌声が重く響いて、この曲を歌う主体は、その世界との距離を感じていることが明らかになります。
心臓のドラマはここから始まります。
どなたかがどこかで仰っていた言葉で、「安本さんの歌声はエビ中の中で優しさを担っている」というものがありました。これにはなるほどと頷かされるばかり。転じてですね、エビ中の各メンバーの歌声には、それぞれに個性というか役割というか、そういったパーソナリティが活かされているのであろうことに気付くことがあるのです。
すこしざっくりと論ってみます。
まず小林さんの歌声は、暖かさや平和を司るもの。美怜ちゃんは可愛さ・可憐さ。中山さんは素と力強さといったところでしょうか。そして柏木さん。今の柏木さんのポジションは、いわゆる歌姫です。その果たす役割はとても大きくて、いわば楽曲の表情を担っていると言えるでしょう。
もちろん曲目によって、各自の役割は大なり小なりの変化を見せるものでもあります。
それでは、真山の歌声が果たしている役割とは何なのでしょうか。僕は、それは「芯」ではないのかなと思うのです。
グループが何らかの曲を歌い上げるとき。
例えば、ひとりだけ絶大なる歌唱メンがいて、その他のメンバーがさほどでもないグループがあったとします。この場合は楽曲の大部分が歌唱メンに依拠してしまう。パワーバランスの偏りが各人の個性を打ち消してしまい、グループみんなの歌としての意味合いが薄くなってしまいます。
例えば逆に、グループ全員が超絶なる歌唱力を持っていたとします。聞き心地はよくなるのかもしれません。しかしうまくディレクションができていないと、曲の聴きどころがどこにあるのか喪失してしまうことになります。ただ上手いだけの曲になってしまうのです。
エビ中にはいわゆる歌唱メンがいて、正直そこまでではない歌唱力の者もいます。しかし彼女らとスタッフは決してその現実から目を逸らすことはせずに、各人の歌声としっかり向き合って楽曲を作りあげています。メンバーの歌声には、それぞれ個性と役割が満ち溢れている。群像劇の如く、中学校の教室に集まった生徒たちの如く、全員が主役なのです。
それでは、なぜエビ中の楽曲は多様な方向性にあって一言で説明できないものであるくせに、エビ中の楽曲として個性を放つことができているのだろうか。その答えは、真山の歌声が芯の部分にあるからだと僕は思うのです。
彼女の歌声には安定感があって、声量もしっかりしている。その上で、ある時は優しく、ある時は楽しく、またある時は強く激しく、楽曲に表現豊かな芯を通しています。芯の通った表現力をもって楽曲の光になり陰になることが出来るからこそ、エースの柏木さんは楽曲に存分に表情をつけ、安本さんが彩りを加えることができます。野性味溢れるりったんさんも、平和で長閑な小林さんも、自由で可憐な美怜ちゃんも、その個性を楽曲に載せこむことができるのです。
ジャンルレスな楽曲群とバラバラな個性。それを繋ぎとめる体幹にあるのが、真山の歌声なのではないかなと。僕はときどきそんなことを感じるのです。
僕はエビ中の全楽曲の歌詞を数え、どのメンバーにどれくらいの歌詞が割り当てられているのか、年次ごとにまとめてみたことがあります。
アーリーデイズの楽曲は真山に任された歌詞の配分が大きく、彼女の歌の上手さや舞台上での挙動の優秀さが裏打ちされたような結果となっていました。それがメジャーデビューを果たしてから、少しずつメンバー各人に配分される歌詞の量が按分されるようになっていきます。
僕は、これは意味なく単純平等に歌詞が割り振られた結果なのではなく、彼女の歌の力がエビ中の芯としてしっかり機能するようになったことの証左だと思っています。下世話で直接的な言い方を選ぶと、上手い人が上手さをひけらかすことにより楽曲を光らせるのではなく、上手い人が皆の個性と一緒に肩を組んで楽曲を輝かせることができるようになったから。
真山の歌詞配分に周りみんなが並んだからこそ、エビ中の歌の力はとても強いものになったと思うのです。
ただ、最近のインタビューなどで思い知りました。
彼女本人はやはり歌詞の割り当てが少なくなったのが寂しかった模様。寂しい悔しいという気持ちの一辺倒であった訳ではないとは想像しますが、考えてみれば寂しいに決まっていますよね。
だから年に一度の生誕祭では、彼女が完全なる主役としてステージのセンターに立つ様子が凄く尊いものに感じるのです。今年も当日に発売5周年を迎えたLiar MaskやFamily Complexはもちろん、シングルのメドレー、アコースティックでのカバー曲、そしてお願いジーザス。MUSiCフェスで感じたことのスピーチも含めて、どれもが素晴らしいパフォーマンス。エビ中の芯として培ってきた力と感情が余すところなく放出された、とても素晴らしい公演になっていました。
その感情の発露がすべて、訪れた皆さんのカメラにおさめられたこと。とても素晴らしく意義のある試みだったと思います。
いつも大きな瞳でメンバーと会場を見つめ、エビ中の陰となり光となり、ひっぱり役にもいじられ役にもなり、そして芯となり体幹となってこの10年間をしっかり勤め上げてきた真山さん。23度目のお誕生日、おめでとう。
みんなの大好きなエビ中とは、つまり真山りかなんです。みんなあなたが大好きなんです。誰よりも自信を持っていい。誰よりも笑っていてほしい。
あなたは責任感とサービス精神の塊だから、カメラの前や舞台の上で笑顔でいてくれても、時々心配になってしまう。でも、ごくまれに見せてくれる、その大きな目をスっと細めた解放されたような笑顔をみると、とても安心します。メンバーと一緒にいるときに、よくその笑顔が現れます。何度も聞いた「真山ね、エビ中のことが大好きなんだ。」という言葉。それってやっぱり本当なんだなと思うと、自然とこちらも笑顔になってしまいます。
あなたが大好きなエビ中は、あなた自身のことでもあるんだ。
誰よりも自信を持っていい。誰よりも笑っていてほしい。
世界は楽しいってさ。
真っ暗闇じゃないってさ。
もちろん知っていたでしょうけれど、あなたの歌の通りです。
世界は楽しく、光に満ちたもの。
あなたの23年と、みんなの10周年。そして、これから訪れる未来。
それら全てが明るく楽しく、輝きに満ちたものでありますように。