アメリカに仕事やあそびなどで、10回ぐらい行ったことがある。
  そこで食べる料理は、はっきりいってあまりおいしくない。
  高いところに行けば、それなりの味はするけれど、通常は、おおざっぱな
  味付けで、量は多いけれど、味気なく美味しくない。

  しかし、「美味しい」のと「美味しそう」なのはどうも違うらしい。
  アメリカの料理で美味しいと思った事は少ないけれど、「おいしそう!」
  とは、何回も思った。

  ある時、スタンフォード大学の近くのステーキハウスに、アップルジャパ
  ンの元副社長と食事をしに行った。彼は日本語が少し話せて、僕は英語が
  全く話せないのだ。
  今から一週間、彼と一緒に仕事をするというのに、ほとんどコミュニケー
  ションがとれずに僕は困っていた。

  夕食をそのレストランで取ることになった。そこのテーブルには、赤と青
  の大きなテーブルクロスがひいいてあり、さらにその上に、白いテーブル
  クロスがひいてある。
  その白いテーブルクロスは、使い捨てで、よく見ると紙でできているよう
  だった。

  席についていると、一番最初にコップが出てきた。のぞいてみると、コッ
  プの中にはクレヨンが入っていた。
  細長いのもあれば、使ってちっちゃくなった太くて短いクレヨンも入って
  いた。

  周りを見まわすと、みんな、そのクレヨンでテーブルクロスに落書きをし
  ている。僕は、ちょっと驚いたけれど、すぐにそれを使い始めた。
  落書きしながら、彼と色々な話をした。
  料理が運ばれてきてテーブルに置かれても、そのすき間をぬって、落書き
  をし続けた。
  知らない単語を絵で描いたり、システムのことなどは図に書いたりして、
  なんとか話ができ、色々な話をした。
  お陰で打ち解けて、なんだか楽しい出張になったのだった。

  この事は、僕の中での、とっても「いいなぁ」なと思った事として、脳裏
  に刻み込まれた。


  また、別の旅行で、アメリカの5つ星のレストランに行ったことがある。
  僕たちは、お金があまりないことを伝えて、なんとか予算内で美味しく楽
  しく食事をしたいことを伝えた。そのやり取りでさえ面白い。
  そして、ディナーが始まった。
  料理は奥からワゴンに載せて運ばれてくる。しかも、必ず二人ついていて
  一人はワゴンを押す人、もう一人はその前を楽しそうに歩いてくる。
  料理には銀のフタがしてあって、なんの料理かは解らない。

  そして、料理がテーブルに置かれると、二人は僕たちの顔をのぞきこむよ
  うにして、にっこりと微笑んだ。
  そして、取っ手に手をかけると、素早くフタを取りながら、また、こちら
  を向いて微笑んだ。
  まるで、手品でもしているような、ショーのような雰囲気である。
  なんだか、美味しいというより楽しい食事といった感じだ。

  最後に、デザートが、またフタつきで出てきた。今度は、今までの倍以上
  もある大きな銀のフタだ。
  そして、それがゆっくり開けられると、中から白い煙が出てきた。白い煙
  の中から、山の形をした黒いチョコレートが現れた。
  その山のてっぺんには、噴火口があって、穴があいていた。ドライアイス
  が仕込んであるのか、その噴火口から、白い煙が出ていた。
  その煙が尾根を伝うようにして、下に向かって流れていて、お皿を越えて
  テーブルにも流れてくるのだった。
  それはまるで、雪のようにも河のようにも見えて、ろうそくの光ですごく
  きれいで、もう最高だった。

  食べてみると、表面は薄いチョコレートで、中はアイスクリームだった。


  なんだか、アメリカの食事はいつも驚かされることばかりで、料理そのも
  のの味を楽しむというよりは、その時の雰囲気や場所を楽しむという感じ
  で、「味」より「楽しい」、「美味しい」より「美味しそう」を追及して
  いるといった感じだ。

  お店に入るまでとか、料理が出るまで、料理の出し方、最後のデザートの
  ゴージャスさ、また、帰るときのちょっとしたサービスなど、どれをとっ
  てもすばらしい。
  さすが、プレゼンテーションの国なのだ

  また、アイデアが独創的で、お店によってサービスが全然違う、だけど、
  どれもこれも楽しませてくれる。
  なんだか、「世の中には決まりはないよ、好きにしてごらん。」というよ
  うな声がする感じがした。
  そして、その究極の形がアメリカのディズニーランドだなぁと思った。

  中身は、もちろん大事だけど、それを分かりやすく、楽しそうにみせるデ
  コレーション、そして、その前後のプロセスもあって、その全体がサービ
  スで、どれが欠けても物足りない。

  この事は、料理だけでなく、全てのサービスについて言えると思う。
  また、人に対しても言えるのかも知れない。

  お互いが、「ショー」のように「手品」のように魅せられたら、世の中が
  なんだか楽しくなるのではと思う。

  「食べさせるより楽しませる、見せるより魅せる・・・」