彼女とは半年あまり続いたが、彼女がバンド仲間の誘いで、ジャズピアノのメンバーとしてニューヨークに行くことになり、不倫関係は終わった。
一回り以上年下の、若い才能ある彼女だったから、その後、本場のミュージシャンとして活躍したことと思う。

もう、僕は40代後半の年令になっていたが、この頃からパソコンLANが急速に発展し、当社の主力プロダクトである業務システムにも、その技術を取り入れることが急務となった。
ノベルのネットウェアやマイクロソフトのLANマネージャー、さらにWindowsNTなどを活用した、クライアントサーバーモデルが普及してきた。
パソコン0Sも、80年代のMS-DOSからWindowsにかわり、Windows95の登場が脚光を浴びた。

まだ、世の中、住専の不良債権処理を引きずってはいたが、景気も徐々に上向き、とくにコンピュータ関連業界は、新技術インフラへのリプレイスがはじまり、潤いはじめて、当社もその時流に乗り、業績は伸びていた。
僕はこの頃は、まだ気力も旺盛で、昼間は、社内マネジメントから、セールスプロモーション、夜は、取引先の接待や経営クラブの付き合いなど、多忙を極めていてた。

そんな忙しい最中、あいかわらず、息抜きとなるオアシスを求めて、目黒のライブパブへ出掛けていた。
ここは、今までにも幾多の女性との出会いがあった場所で、この店の女性スタッフとも親密な間柄になったこともある。
店内には、生バンドのステージの前にダンススペースが広がり、そこを囲むようにボックス席が配置されている。
そして、それとは別に入り口横のカウンター前には、一人用の席として、10人程掛けられる円卓がある。

僕がその円卓の席に座っていると、向かい合わせに40才ぐらいの二人の女性がやって来た。
一人は、まあ、十人並みだが、もう一人は、目鼻立ちがくっきりした中背の美人だ。
対角線上に位置しているから、彼女達と目線が合う。
さりげなく会釈すると、先方も笑顔で応えてくれる。
バンド演奏がはじまり、踊りはじめると、たまたま、彼女達と触れ合う。
自然な成り行きのように、美人の方に声をかける。
「よく、来るの?」
「ええ、時々。」
「よかったら、一緒に飲んでいい?」
「友達に聞いてみるわ。」

バンド演奏が終わって、席に付くと、二人は店の男性スタッフとなにやら話していたが、しばらくして、その男性スタッフが僕の方にやって来た。
何か僕のことを聞かれたらしい。
「ちゃんとした、いい人だと話しておきましたよ。」と彼は笑いながら言う。
彼女達も向い側でニコニコしている。
そして、僕は彼女達の隣の席に座り、一緒に飲むことにしたんだ。
僕はピアニストの彼女と別れて、その侘しさを紛らわしたかったのだ。

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