「おはようございます」と私は階段をおりながら、下で執事と話していたカエール侯爵に声をかけた。
「おはよう、アリアネ」
「軍服ではないんですね」
侯爵は軍服ではなく、黒いスーツを着ていた。ブーツでなく、靴。白いシャツに赤いネクタイ。髪は結ばれず、肩に触れている。似合っているが、私として軍服がいい。
「ヴェンドメ准将軍はジャン将軍の葬式に行くわけにはいかないから」
「こういう時まで、そういうことを考えていますか」
「こういう時こそ、アリアネ」
葬式が行われている教会にカエール侯爵が入ったとたん、一斉に教会にいた者がドアを見た。人の目線が重い。侯爵の後ろを歩いていた私でさえ感じる。フランスア様は私と侯爵の後ろにいた。
カエール侯爵が来ていることに驚いている人もいれば、軍服を着ていないことに驚いている人もいる。教会中に響く声から分かる。侯爵は気にせず、ただ前へと歩き続ける。たまに自ら挨拶をする。
「ヴェンドメ家の三男として、父上と母上の代わりに・・・」と
フランスア様はカエール侯爵を待たず、ドノヴァン公爵の隣に立った。無言のまま、自分の父親の肩に手を置いた。
侯爵はやっとドノヴァン公爵とマリエー様の前に辿り着いた。一礼をし、マリエー様の隣に立った。マリエー様息子を抱き、泣きはじめた。侯爵は母親の頭に手を置く。
葬式はかなり長かった。しかしヴェンドメ家の男たちは動揺を見せない。侯爵はまだ挨拶していなかった人と二・三言を交わす以上、何も言わない。空気はずっと重いままだ。
人は全員帰って、家族だけ残った時に、ドノヴァン公爵はやっと座った。
「カエール、全て任せてしまって、すまなかった」
「いいえ」
「フランスア、お前と色々話さないとなぁ」
「それは後でいいでしょう」とフランスア様は言う「今日は家に帰って、休みましょう」
「ワタシは自分の屋敷に戻ります。フランスア兄、後任せます」
「分かった」
「母上」とカエール侯爵はまだ抱きついているマリエー様に声をかける「ワタシはこれで失礼します」
マリエー様はただ頷く。そして息子から離れる。
つづく
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