「レディーアンヌ、何かありましたか」とカエール侯爵は聞く
私は書斎から二人を見守っていた
「すみません、カエール侯爵、連絡なし来てしまいまして」
「いいえ。少し意外なだけです」
「来月から住む家を見たくて・・・それに私の夫となるカエール侯爵と話をしたいと思いまして。仕事の邪魔でしたか」
「いいえ、今日は休みですから、邪魔ではありませんよ」とカエール侯爵は外にあったベンチに座る「しかし、疲れているので、できればここでゆっくりとレディーアンヌと話したいですね」
「体調が悪いですか」とアンヌも座る
「少し。・・・もう結婚に誰を招くか決めましたか」
「カエール侯爵に任せるべきだとお父様に言われました」
「レディーアンヌが招きたい人を招いてもいいですよ。ワタシは軍関係の人をたくさん招待しないといけませんが、友達のいない結婚式なんて寂しいでしょう」
「そうですね」
「それと、カエール侯爵ではなく、カエールでいいです。来月結婚するわけですから。レディーアンヌをこれからアンヌと呼んでもいいですか」とカエール侯爵はアンヌの髪に手を伸ばし、口付けた。
「はい」と下を向くアンヌだった。
書斎から表情を見えないが、顔は少し赤くなっているだろう。
「一緒に客のリストを作りましょう」とカエール侯爵は執事から紙とペンを受け取る
「しかし教会を先に選ばないと、何人入れるか分かりませんよ」
「ワタシは准将軍で侯爵ですから、サン・ピエッヘで結婚するのは決まりです」
サン・ピエッヘは国中で一番大きく豪華な教会である。王室に親しい者と王族しかその教会で結婚しない。
ジャン将軍の葬式は別の教会だったから、私はまだサン・ピエッヘに入ったことがない。
「侯爵は・・・カエールはサン・ピエッヘを使うことができますか」とアンヌは驚きと興奮の混ぜた台詞を言う
「もちろん」
「素敵。サン・ピエッヘでの結婚、夢にでさえ見なかったわ。カエールは王室に親しいということですね」
「いずれアンヌも王族と話すことになりますよ」
「すごいわ」
我が国では、爵位を持っていても、城に出入りできる貴族は少ない。公爵か侯爵になれば王族と一対一話すことができるが、それ以下の者は公の場以外では王族と会うことが殆どない。しかし軍に入れば、隊長にでも王と面会ができる。
王妃が病気になってから、王はあまり貴族と接することがない。その代わり第一王子と第二王子はいつも舞踏会などに出席し、貴族の機嫌をとっている。
大きい帝国が欲しいと病弱な王妃は王に言ってから、王は国を広がることにしか目を向かない。だから広い国を手に入れるための不可欠な軍を大事にしている。
「私はまだ殿下達とお会いしたことがありませんから、楽しみだわ」
しばらくアンヌはその話に夢中だった
リストを書き終わった時には
「今日レディーアリアネを見当たりませんね」
「頼まれた仕事を書斎でやっています」
「結婚後でもレディーアリアネはここに住みますか」
「護るべき者の近くにいなければ、護れないでしょう」
「そうですね」と元気なくアンヌは言う
「アリアネと何か問題がありますか」
「舞踏会でキスを交わした二人を見ましたわ。上司と部下の関係だけではないかと思いまして・・・」
「あの後アリアネに断られたんです。今は上司と部下以外の関係は何もありませんよ」と困ることなく、嘘をつくカエール侯爵だった
「でもレディーアリアネのことを手放すつもりはないようですね」
「腕は確かですから、手放しません。それにワタシは死んだ後、アンヌの強い味方になりますから、アリアネと仲良くしてください」
「女遊びが好きと聞きましたから、レディーアリアネもカエールの不特定の恋人だと思っていました」
「アリアネは恋人ではありません。でも女遊びが好きなのは事実です」
「お父様でさえ愛人の一人や二人がいますから、社交界で人気者のカエールにいないはずがありませんね。それについて口だしたりはしません。この家を継ぐ者を生むのは私ですから。ただ同じ家で愛人と住みたくありませんわ」
「アリアネは愛人ではありませんから、心配ありませんよ」
「カエールの言葉に信じます。・・・日曜日にカエールは何か用事がありますか。一緒に懺悔しに行きたいです」
「懺悔か」
「カエールは懺悔しに行ったりしませんか」
「ジャン兄の葬式の時に、5年ぶり教会に入りましたよ。その前最後に入ったのはジェアン伯爵の結婚の時です」
「神に信じませんか」
「自分を信じます。でもアンヌは一緒に行きたいなら、お供しましょう。日曜日は軍関係のことで城に行かないといけないので・・・違う日なら」
「いいですよ。カエールは教会に行かないいなら、姉と行きます」
「ごめんね」と本当に残念だと思っていないカエール侯爵は言う
「いいえ。カエールの仕事について聞きたいことがあります」
「何でしょう」
「戦場に出ますか」とちょっと不安そうな声でアンヌは聞く
その不安を私は理解できる
「大きい戦いの時や複雑な戦略の時に戦場に出ることがあります。仕事ですから。しかし何よりこの仕事のことを使命だと思っていますから、兵達だけ送ることができません」
アンヌは何も言わなかった。
「必ず帰ってきますから」とカエール侯爵は決して私としない無理な約束をアンヌとしていた。
アンヌと違って、私は死を迎えるカエールを最期まで見守ることになる。狂気に満ちる戦場で敵に負けたカエールか、それとも治れない病気で弱くなっていき、ベッドから離れることのできないカエールか。誇り高きのこの男を助けることできずに。
つづく
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