アンヌはカエール侯爵の屋敷をみせてもらってから、帰った。
私は居間でアンヌを外まで見送りに行ったカエール侯爵を待っていた。
疲れた様子で、侯爵は黙ったままソファに座る。と、咳をだす。
「無理をしていたんですね」
「この弱い姿を見せたくない」
「少し熱があります」と私は侯爵の額に手を伸ばした「最近休んでいないから、体調が悪くなったじゃないですか」
「予定外の軍の移動とジャン兄の葬式のアトカタヅケで忙しかったからね」
アトカタヅケはジャン将軍の死に関わった者を全て殺すこと。
咳はまた少しひどくなる。
そしてやっと今朝の不機嫌の理由が分かった。体調が悪くなることを予想をしていたか、もう朝から悪かったか。
「六年間、ずっとアンヌから体調の不良さを隠すつもりですか」
「いいえ。隠すつもりはないけど、アンヌにこんなカエールを見られたくない。アリアネにだけ、もう充分。・・・それより、来月戦場にでることになると思う」
「なぜですか」
「軍の移動やらから、その予感がする」
「では、今休まないと。戦場で咳を出し始めたら、戦えなくなって・・・」と全部を言えなかった私だった。
カエール侯爵は微笑ましいと思っている様子で、私を見る。
一人で立ち、部屋へと歩き出した。私は手伝おうと思ったが、ゆっくりと階段を上っていく侯爵は一人で大丈夫だと言わんばかり。
やっとついた部屋のベッドに横になった。私は薬をとりに行こうとしたら
「アリアネ」と手が差し伸ばされていた
その手の主の欲しいままに、私はベッドに座り、カエールの胸に頭をおいた。手は私の髪を撫でる
「アリアネの許しが欲しい」
私は聞くだけ
「結婚式の日にアンヌとキスを交わさないといけないんだ。アリアネと交わした約束をその時だけ破ってしまう・・・」
「自分の奥さんとキスするのは普通でしょう!?」
「アリアネに捧げたものだから、他の女性を触れたりはしないよ。結婚式の日以外二度とアンヌとキスを交わすことがない。アリアネと唯一した約束を破ったら、嘘をついたことになる。君に夢を見せない代わりに、裏切ることはない」と真剣に話すカエールだった。
「分かりました。許しますよ。必要な時に、アンヌとキスすることを。彼女を幸せにして欲しいからね」
重ねあう息と心臓の音。
つづく
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