【WSJ: Greg Ip: Could Higher Interest Rates Lead to Higher Inflation? Explaining ‘Neo-Fisherism’】
そもそも金利の正常化をめぐっては、FOMC内でもタカ派とハト派が長らく議論を交わしている状況なのですが。
その中でもセントルイス連邦準備銀行のJames Bullard総裁は2010年より、
「インフレ目標を達成するために必要なことは、ゼロ金利の維持ではなく金利の引上げである」
ということを主張し続けています。
これは教科書的な経済学の考え方に照らすと、非常に違和感があるのではないでしょうか

・景気が後退し、需給の緩みから物価が低下する局面では、中央銀行は金融緩和を行い、金利を引き下げることで民間企業の投資を刺激することができる
↓
・景気回復に伴って需給ギャップが縮小し、物価が上昇に転ずる
というのが、広く受け入れられた思考だと思います。
これと真逆の「金利を引き上げろ」という主張…これはいかに

これは新フィッシャー主義(Neo-Fisherism)と名付けられていますが、1930年代の大恐慌期を生きた経済学者、Irving Fisherの仮説に由来するようです。
Fisherは名目金利と実質金利、そしてインフレーションの関係を次のように定式化しました。
(名目金利) = (実質金利) + (期待インフレ率)
ここで、新フィッシャー主義は実質金利を民間経済主体のリスク選好等の外生的要因によって決定される変数と考えます。
すると、上の式は期待インフレ率と名目金利との間の比例的な関係を表す式として解釈ができます。
すなわち、名目金利の引下げは、期待インフレ率の低下をもたらします。
この、名目金利の水準が期待インフレ率のアンカーとなるという考え方は、古くから「フィッシャー効果」と呼ばれているものですが、早期の金利正常化論者は、このフィッシャー効果に着目し、物価安定の目標である2%程度のインフレを実現するためには、政策金利を引き上げることが必要と主張しているようです。
この議論の重要な前提となっているのは
・ 実質金利が外生的な要因によって決まる = 政策行動によって操作できる変数ではない
という点です。果たしてこの前提は正しいのか

経済に負のショックが加わる場合には、一時的に実質金利が均衡水準から乖離して低下することもありそうです。
新フィッシャー主義の論者も、そのような可能性は認めつつも、ゼロ金利がかれこれ5年以上も継続しているという事実に照らし、これは短期均衡の問題ではなく長期均衡の問題である、という考えに立っているようです。
長期的な均衡水準としての実質金利がプラスの領域にあるのだとすれば、ゼロに固定化された名目金利はマイナスのインフレ期待、すなわちデフレを帰結します。
ところが逆に、2009年の経済の大幅な落ち込みの後、実質金利が一時的にせよ大幅に低下したと仮定すると、名目金利がゼロの下限に到達し、それ以上の引下げができない状況は、とりも直さず本来必要な金融緩和が行われていないという意味で、金融政策が引締め基調で運営されていたことにほかなりません。
実質金利という目に見えない変数をめぐるこの議論、みなさんはどのように考えられるでしょうか
