半月前の話になりますが、4月最後の日曜日、以前から一度訪ねてみたいと思っていた、大磯の澤田美喜記念館に行ってきました。
JR東海道線大磯駅のすぐ近くの小高い丘の上にあります。
石段を登って行くと、釣鐘のかかっているゲートの奥に記念館の建物が見えてきます。
この建物は上から見ると六角形になっていて、ノアの方舟をイメージしたのだそうです。
そしてアプローチの石段の両脇に並ぶ十字架は、なんと、長崎の二十六聖人の十字架を表しているとのこと。
私が8年前まで住んでいた長崎との深いつながりを感じました。
館内には、澤田美喜さんが収集した隠れキリシタン(潜伏キリシタン)所縁の品々が展示されています。

今でこそ、潜伏キリシタンは多くの人に知られるようになりましたが、澤田美喜さんの生きた時代、潜伏キリシタンの人々の信仰スタイルや彼らが脈々と信仰を守り続けたことを示す品々は散逸するなどして失われつつあったようです。それを何とかして後世に残さなければという澤田美喜さんのある種の危機感が、こうしたコレクションの原動力となっていたようです。実際、日本のみならず世界各地で収集した信仰の足跡の品々が展示されています。
キリシタン大名として名高い高山右近が日本から追放され、フィリピンに向かう途上で彫ったと伝えられるマリア像。
それがどうして今ここ大磯の地にあるのか、何かとても不思議な気がします。
仏像の背中の蓋を開けると、十字架につけられたキリスト像がかくされていたり、あの手この手で信仰を偽装して権力者や密告者の目から逃れようとしていたか、苦労が覗えると同時にその知恵と工夫に脱帽です。
こちらは日本に2枚だけ現存する魔鏡のうちの1枚。
一見、ただの鏡なのですが、表面にわずかな凹凸をつけることにより、光を反射させてスクリーンに映すとキリスト像が現れるという仕組みです。
じつは、現存する2枚のうちもう1枚は、一昨年このブログの記事で紹介した、福岡市の西南学院大学博物館を訪ねたときに初めて見ました。
ここ大磯でまた魔鏡に出会ったことの驚きと、福岡と大磯を繋ぐ不思議な縁を感じます。
今回の記念館訪問ではガイドさんがいろいろと丁寧に説明してくださいました。
澤田美喜さんのことは、三菱の創業者である岩崎弥太郎の孫でご自身はクリスチャンであり、隠れキリシタンへの造詣が深いということくらいしか知らなかったのですが、ガイドさんの話から、この記念館と隣接する孤児院エリザベス・サンダース・ホーム、聖ステパノ学園の設立に至る、澤田美喜さんの熱い思いと壮絶な闘いのドラマがあったことが窺い知れます。
澤田美喜さんやエリザベス・サンダース・ホームのことはここではこれ以上書きませんが、ネット上にいくつもの記事が紹介されているので、お薦めのリンクを張っておきます。興味のある方はご覧ください。
・三菱グループウェブサイトより 三菱の人ゆかりの人 vol.22 澤田美喜(上)、 vol.23 澤田美喜(下)
・歴史・戦国ポータルサイト武将ジャパンより 岩崎弥太郎の孫娘・沢田美喜 大富豪の家に生まれた令嬢はなぜ慈善の道を進んだか
・CHRISTIAN TODAYウェブサイトより 混血児の母となって-澤田美喜の生涯
・亜紀書房ウェブマガジンより さまよう血 10 沢田美喜とエリザベス・サンダースホーム
今なお、エリザベス・サンダース・ホームでは約80名の子どもたちが暮らしています。その子供たちが毎週日曜日の朝、礼拝を捧げる記念礼拝堂も見学させていただきました。
この礼拝堂には、ホームで暮らす子供たちが喜びと希望を持って、あらゆる困難に立ち向かうことのできる自立した人間として社会に出て行ってほしいと願う澤田美喜さんの強い願いが込められていると感じました。
上に紹介したリンク先の記事に詳しく書かれていますが、戦後の混乱期には望まれずに生まれた子供が多く、最も悲しいケースでは、その子が生まれたこと自体を隠すために人目をさけながら命を絶たれる例が多く見られたとのことです。幸いにして生きながらえた子供たちも、親から捨てられて孤児となることが多く、酷い差別を受けることになりましたがその数は明らかではないと言われます。当時厚生省が公表した孤児の数がありますが、GHQ、日本政府とも、戦後の混乱期に占領軍兵士と日本人女性との売春や強姦があったことをそれぞれ恥部として表に出したくなかったため、数を意図的に少なくしているとの指摘もあるそうです。
しかしこれらは決して過去の話ではなく、私たちが暮らす社会が今なおその延長線上にあることを感じています。
記念館からは湘南の海を望むことができます。
ここで海を見ていたら、唐突に長崎の外海にある遠藤周作文学館の「沈黙の碑」の碑文が思い起こされました。
「人間がこんなに哀しいのに 主よ 海があまりに碧いのです」
空も碧かったです。4月なのにもう初夏の風でした。













