「20世紀巨匠の版画達」展 at パラミタミュージアム | ネコ人間のつぶやき

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 昨年暮れにパラミタミュージアムへ「20世紀巨匠の版画達展」を観てきました (※本展覧会の作品は撮影禁止なので展示目録と記憶を頼りに同じ作品の画像を添付しました)。

 

マックスフィールド・パリッシュ「提灯を持つ人たち」(1910年)

"PARRISH, Maxfield. "The Lantern Bearers" (1908), Collier's Magazine, 1910" Photo by Halloween HJB

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 僕はこの展覧会でマックスフィールド・パリッシュを知りました。

 

 「パリッシュ・ブルー」と呼ばれる青色が印象深いですね。

 

 幻想的な人物像も美しい。しばし魅入ってしまいました。

 

 1920年代のアメリカでは「4軒に1軒はどこの家にもパリッシュのカレンダーがかけられていた」と言われるほど当時の庶民の暮らしになじみがあったそうです。

 

 今、そういう作家や作品はありませんね。パリッシュの人気がいかに凄かったか、なんですね。


 作品だけでなく、1人のイラストレーター・画家のパリッシュはセレブとして人気者となったそうです。

 

 こういうアーティストは若い国アメリカでは初くらいでしょうか。

 

 後にノーマン・ロックウェルが活躍する下地を作った人物でもあるんです。

 

「ジョンズ先生のお誕生日」(1956年)

"Happy Birthday Miss Jones" Photo by Cliff

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 僕のお目当てはこちら、大好きなノーマン・ロックウェルです。


 「ジョンズ先生のお誕生日」(1956年)みたいな、古き良きアメリカの庶民の日常をユーモアたっぷりに描いた作風が今も人気です。

 

 国民的イラストレーター・ロックウェルは「サタデー・イブニング・ポスト」誌のイラストが特に有名です。 


 雑誌のイラストですから、庶民がロックウェルの作品を手にしやすかったんです。

 

 展覧会でノーマン・ロックウェルのイラストが掲載された当時の印刷物を観られたのは感動でした。

 

「自画像」(1960年)

 

 三重に自画像が描かれている、というノーマン・ロックウェルの有名なセルフポートレイトです。

 

 バケツから吸い殻の煙が上がっていますが、前にロックウェルは煙草の不始末でアトリエを全焼させたというミスをしているそう。

 

 だからこの絵は自虐ユーモアなんですね。

 

 ノーマン・ロックウェルがユーモアに溢れ、それを絵筆で表現する卓越したセンスの持ち主だったことがよくわかります。

 

「アメリカ国民の宿題」(1960年)

"The Problem We All Live With by Norman Rockwell" Photo by Under the same moon...

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 公民権運動を背景に描かれた「アメリカ国民の宿題」(1960年)は、黒人の女の子が保安官にガードされながら白人の学校に登校する姿が描かれています。


 この宿題は未だ解決されていません。

 

 先述のロックウェルの作風は、国民がアメリカを信じることが出来た時代だからウケていたそう。

 

 アメリカンドリームが良い例です。

 

 でも戦後、60年代に入ると厳しい現実にさらされた庶民はアメリカの夢や理想を信じられなくなったんです。

 

 そういう時代の変化があってロックウェルは作風をリアリズム重視に変えた、と解説されていました。


 それはロックウェルがかつて描いたアメリカの青春時代が終わったことを意味してもいるんですね。

 

ロートレック「メイ・ミルトン」(1895年)

"May Milton" Photo by Lluís Ribes Mateu

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 アートは高価で中々庶民の手には届きませんが、印刷物となることで安価となり、身近な存在になることが可能になりました。

 

 大衆文化にアートが当たり前のように鎮座する。

 

 これを可能にしたのは大量に印刷できる技術革新です。

 

 それが19世紀末のヨーロッパで始まったんですね。

 

 パリではトゥールーズ=ロートレックのポスター。

 

 ロートレックは貴族の出ですが、家を出てパリの歓楽街、ムーラン・ルージュや娼館に入りびたって夜の世界の女性たちを生き生きと描きました。

 

ミュシャ「四季 春」(1896年)

 

 アルフォンス・ミュシャは大女優サラ・ベルナールに見出され、彼女の舞台「ジスモンダ」のポスターを手掛けてメジャーとなりました。

 

 19世紀末のパリの街角にはミュシャのポスターが貼られていた、と想像するだけでなんだかワクワクします。

 

 ミュシャはその後も多くの広告を手掛けていますが、連作「四季」もそうです。

 

 ミュシャらしい女性像と脇にはアールヌーヴォーの特徴である花木が描かれています。

 

 ミュシャは「四季」を1897年、1900年にも製作しましたが、この1896年版が一番人気があります。

 

ボナール「小さな洗濯女」(1896年)

"The Little Laundress (1896) print in high resolution by Pierre Bonnard. Original from the Sterling and Francine Clark Art Institute. Digitally enhanced by rawpixel." Photo by Rawpixel Ltd

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 ノーマン・ロックウェルは 「作品は出版物となって完成する」と述べたそう。

 

 大量に印刷されることで安価となり、庶民の暮らしに自然にアートが溶け込む。

 

 ポストカード、カレンダーやポスターになってアートが大衆文化のものとなる。ロックウェルの意図なんですね。

 

 展覧会は他にもシャガール、ミロ、マティス、ダリ、ピカソら錚々たる巨匠たちのリトグラフが展示されており圧巻でした。

 

 
 パラミタミュージアムは落ち着いた雰囲気が素敵な美術館です。
 
 手入れされたパラミタガーデンを散歩したり、無料サロンでひと休みもできます。
 
 長いスロープがあり、利用者への配慮が行き届いています。
 

 パラミタミュージアムは岡田文化財団が運営しています。
 
 三重県の芸術の普及と振興を目的に活動している公益財団法人だそうですが、展覧会の良心的な価格設定といい、ロックウェルの心意気と通じる信念を感じさせます。
 
  「20世紀巨匠の版画達」展は、キュレーターさんの熱意を感じさせる素晴らしい展覧会でした。

 パラミタミュージアムがある三重県菰野町はオシャレなお店もあって楽しめましたね。