「戦場にかける橋」(1957年) | ネコ人間のつぶやき

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 名匠デヴィッド・リーン監督のアカデミー賞7部門受賞に輝く名作「戦場にかける橋」(1957年)。劇中に流れる「クワイ河マーチ」も有名ですね。

 

 

  1943年、第二次世界大戦の最中。

 

 タイとビルマ国境付近の日本軍管轄の第16捕虜収容所にニコルソン大佐(アレック・ギネス)率いるイギリス軍の一隊が移送されて来ます。

 

 収容所所長の斉藤大佐(早川雪舟)は、クワイ川に鉄道が走る橋を架ける建設作業用の人員として英軍捕虜を移送したのです。

 

 

 収容所にはアメリカ兵のシアーズ中佐(ウィリアム・ホールデン)がおり、脱走を計画していることをニコルソンに話します。

 

 ニコルソンは「自分が降伏したのは司令部の命令。ゆえに脱走は規律違反になる」とシアーズの話に乗りません。

 

 ニコルソンは規律を重んじる厳格なベテラン軍人です。

 

 だから上からの命令は絶対で、個人よりも優先します。

 

 対してシアーズは「収容所にいたら死ぬのは目に見えている。だったら万が一の可能性に賭けて自由のために脱走すべき」と合理的な考えです。

 

 そのためならシアーズは仮病を使ったり、日本兵を買収するなど、手段を選ばない徹底ぶりです。

 

 

 斉藤大佐はイギリス軍の士官にも労役に服させる、と明言します。

 

 「これは捕虜の対応を定めたジェネーヴ協定に反する」と反対するニコルソンと斉藤大佐は対立。

 

 ニコルソンは過酷な罰則を科されてしまいますが、ニコルソンは屈しません。

 

 

 軍医のクリプトン(ジェームズ・ドナルド)は、斉藤大佐の酷い仕打ちに怒りを感じると同時に、ニコルソンの命を省みず尊厳と誇りを貫く方法に疑問を抱いてもいます。

 

 期日に橋を完成しないと自害せざるを得ない斉藤大佐は、ニコルソンを独房から出します。


 回復したニコルソンは、斉藤大佐に「自分が工事を指揮すれば英軍捕虜は高い士気で作業を遂行できる」という。橋の建築に秀でた部下もいる、と。


 二人の意地とプライドがぶつかり合いますが、結局斉藤大佐が折れて、ニコルソンが現場を指揮することで橋の建設が始まります。

 

 

 物語は主に4人の主義が違う男達を通じて描かれます。

 

 イギリス人のニコルソン、アメリカ兵のシアーズ中佐、斉藤大佐、そして軍医のクリプトンです。

 

 シアーズはニコルソンも斉藤も名誉に酔いしれてどう死ぬかと考えてばかりいるけど、人らしく生きていることが一番大事なんだ、と。

 

 シアーズはそのためには手段を選ばないんですけど、彼の個人主義や合理主義は徹底している。

 

 そんなシアーズをニコルソンは理解できず「アメリカ人はわからんが、シアーズはアメリカ人の中でも変わっている」と評する。

 

 ニコルソンは規律に忠実で、折れることを知らない。

 

 クリプトン軍医が「折れたらどうです?」と言ってもニコルソンは首を縦に振りません。

 

 斉藤は恥とプライドに敏感で、ニコルソンと対立すると互いに引くに引けなくなります。


 実はこの2人は似ています。実際、不思議な友情が芽生えます。

 

 

 しかし、ニコルソンと斉藤の誇りをめぐる言動は、やがて互いの命や部下たちをも巻き込む危うさをはらんでゆくんです。

 

 その様子を見ていたクリプトン軍医は「二人ともおかしいよ。それとも私がおかしいのか?」とつぶやく。

 

 ちなみにクリプトン軍医はこの物語で普通の人の感覚の持ち主です。

 

 語り部ではありませんが、彼の視点を通じて視聴者は映画を観る作りになっています。

 

 ニコルソン、シアーズ、斉藤はそれぞれ主義とか文化が違うんですが、戦場ではそれがとにかく対立しか生まない。

 

 戦争の状況下では「違う」ということがマイナスでしかないんです。

 

 

 「戦場に架ける橋」は戦争の不条理劇なんですね。

 

 ニコルソンはジュネーヴ条約を挙げて斉藤大佐に「士官は労役に就かせない」と文字通り命がけで抵抗していました。

 

 ところが、ニコルソンは途中から橋の完成を期日に間に合わせるために自ら士官に指示して労働に従事させ、さらには入院中の傷病兵にも労働させる。

 

 そもそも立派な橋を期日に仕上げることは、敵国の手助けをすることになる。

 

 ですが、ニコルソンはそれを部下たちに指摘されても「いや、兵たちの励みとなる」と認めない。

 

 シアーズは脱走に成功し、英軍の病院でのんびり療養。あとは傷痍退役して母国に帰るだけだ、と。

 

 しかし、シアーズはウィルソンに呼ばれて、橋の爆破作戦の道案内を依頼される。

 

 というか、シアーズは弱みを握られていて断る選択肢は無い。

 

 パラシュートで降りるも、「君が逃げて来た道は日本兵の警備が強化されているからジャングルを抜ける」と言われたシアーズ。

 

 こうしてますますシアーズがわざわざ命がけで脱走して来た収容所に舞い戻る理由が無くなる。

 

 そして衝撃のラストはこの不条理劇の極みなんです。

 

 クリプトンが「狂気だ!これは狂気だ…」と嘆きます。

 

"00009a" Photo by Lucius Fox 60

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 人物描写が流石にデヴィッド・リーンなんです。

 

 そしてストーリー。脚本が素晴らしいんですね。


 「戦場に架ける橋」は、戦争の矛盾と狂気を描いています。


 「戦場に架ける橋」は、戦後わずか12年後に公開ですが、誰にも肩入れせずに戦争の不条理を描いたという点で特筆すべきでしょう。