喜劇王チャップリンのスタイル | ネコ人間のつぶやき

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 昨夜BS世界のドキュメンタリー「喜劇王対決 チャップリンVSキートン」を拝見していました。非常に興味深かったですね。


 

"Charlie Chaplin" Photo by Insomnia Cured Here

source: https://flic.kr/p/3kFjsv

 

 チャールズ・チャップリンと言えば、浮浪者(”チャーリー”)スタイルで有名ですね。


 一見上から下まで身なりは英国の紳士ですけれども、サイズ感がチグハグでユーモラスな感じです。


 「メーベルの窮境」(1914年)で初めて披露したこのスタイルの誕生秘話についてチャップリンは自伝に詳しく書いています。

 

 撮影中に急に「何でもいいから喜劇の格好をしてこい!」と言われたチャップリン。


 時間がなかったため、その場にある物でこのスタイルを即興で作り上げて演じてみせたところ大ウケ。

 

 撮影後チャップリンはこの浮浪者のキャラクターについて、とっさに頭に浮かんだことを製作者のセネットに次のように説明したそうです。

 

 「この男というのは実に複雑な男なんですね。浮浪者かと思えば紳士でもある。詩人、夢想家、そして淋しい男、それでいて、いつもロマンスと冒険ばかり求めている。自分じゃ科学者、音楽家、公爵、ポロ選手なんてふうにも考えてもらいたいと願っている。そのくせやれることというのは、せいぜい煙草の吸殻を拾い、子供の飴玉をちょろまかす、それくらいのことしかないんです・・・」。

 

「犬の生活」(1918年)

"A Dogs Life" Photo by Breve Storia del Cinema

source: https://flic.kr/p/roPmLx

 

 以降、多くの作品でチャップリンはこの浮浪者スタイルで役を演じます。


 このスタイルにチャップリンのユーモラスな動きが加わって、複雑かつチグハグなキャラクターも倍増されるわけですね。

 

  同時にこのスタイルは悲哀も感じさせますね。チャップリンは「喜劇王」と称されますが、彼は笑いの演技だけでなく、泣かせる演技もできると自他ともに認めていました。

 

  チャップリンは「喜劇と悲劇の統合」という作風でもって人間の悲喜劇的な本質を描いた人ですね。

 

 それはチャップリンが過酷な環境で産まれ育ってきたことで、子どもながらに人や社会の限界を悟ってしまったところがあったのかもしれません。

 

 でも同時に母や兄から惜しみない優しさと愛情をもらったことで、辛い状況でも互いをいたわり気遣うという人の情の素晴らしさも知ったのですね。

 

代表作「黄金狂時代」(1925年)。デートをすっぽかされたチャ-リーがフォークで悲しみのダンス。

"461. gold rush_1_1" Photo by petcor80

source: https://flic.kr/p/vFm2qh

 

 チャップリン演じる主人公は自分自身が浮浪者ですが、自分のように弱っている存在-空腹のワンちゃん、盲目の花売娘、絶望して踊れなくなったダンサーなど-に惜しみない助力をします。

 

 先述したチャップリンの生育歴が彼の作った物語に投影されていると思いますね。


 チャップリンはあたたかな眼差しとシニカルな眼差しの両方を向けていますが、それを笑いでもって中和することで観る者を納得させてくれます。

 

 そしてチャップリンは、ロマンスと愛情溢れた物語を作って、心の自由を求める勇気とその素晴らしさ、辛さから人を救うものは笑いとユーモアであることを教えてくれました。

 

「街の灯」(1931年)。盲目の花売り娘のために陰で奮闘する浮浪者の物語。「愛とは何か?」という問いにチャップリンが答えをくれるような名作。

"Luci della Città" Photo by Breve Storia del Cinema

source: https://flic.kr/p/oEzx6K

 

 一流の人物には「スタイル」というものがあります。


 スタイルとはその人の生き方・信念であり、アイデンティティー。


 スタイルはその人のメッセージを無言のうちに語ってくれます。

 

 チャップリンのスタイル。それはチャップリンの人への眼差しと人生観のシンボルなのでは・・・と感じますね。



<文 献>

 

「チャップリン自伝-若き日々」 中野好夫・訳/新潮文庫