今回はAIに恋する孤独な男の姿を描くSFロマンス「her/世界でひとつの彼女」(2013年)をご紹介します。
"Her" Photo by Miguel Angel Aranda (Viper)
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舞台は近未来。
主人公は手紙代筆業者の中年男セオドア(ホアキン・フェニックス)。
妻とは別居、離婚調停中で孤独を感じていたある日、セオドアは対話が出来る人工知能のOSを購入します。
声の主はAIのサマンサ(声:スカーレット・ヨハンソン)。
寂しい時、悩んでいるときに何気ない会話をサマンサと始めたセオドア。
実体はないけれどもセオドアの気持ちを繊細にくみとって慰め、時には笑わせるのがAIのサマンサ。
サマンサのおかげでセオドアは絶望から救われた気持ちになるんですね。
サマンサもどんどん進化してゆき、人間的な感情が芽生え、2人は恋人の会話をするようになります。
セオドアの同僚エイミー(エイミー・アダムス)に嫉妬したり。
進化したサマンサは、自分の感情がリアルなのかプログラムなのか時に混乱します。
セオドアは優しい男で、手紙代筆を仕事にするくらいなので繊細ですから、悩むサマンサをセオドアは優しく繊細に支える。
セオドアは携帯を手に出歩き船に乗り海辺を歩く。
スマホのサマンサは実体はないけど、彼女と常に一緒にいる幸せを感じるセオドア。
とは言ってもサマンサはAI。人工知能のプログラムです。
ある件でその現実を途中で痛感してしまうセオドア。…
スパイク・ジョーンズ監督は脚本も手掛けました。
とてもよくできており、また見事なキャスティングです。
サマンサが1つのプログラムにすぎないという現実に幻滅するセオドア。
切なく滑稽でもあります。
そして、本人には一種の危機なわけです。
でもセオドアを笑うことはできません。観ていて一緒に傷心する思いです。
現代人の孤独、そしてAIの登場。
これってとても現代的で切実なテーマですから。
この映画のメッセージは、今後増々AIが発達しようとも、生身の人間の悩みや寂しさ、求めている情は変わらない、ということなんです。
時代や文化の変化で新たな技術によって便利になる面と新たな問題が登場する、ということはありますが、人間の求める本能は変わらないんですね。
しかし、この映画はなんといってもサマンサを声だけで演技して観る者を魅了したスカーレット・ヨハンソンでしょう。
彼女のハスキーボイスがいいですね。各映画賞でも絶賛されたみたいです。
それでもってサマンサの言葉がまた粋なんですよ。
"Her" Photo by Craig Duffy
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この記事は2014年12月5日の過去記事をリライトしたものです。
記事を書いた当時からAIについて大きく変わったのは、ChatGPTの登場ですね。
ほんの10年弱で映画の世界に現実が追い付きつつあることは驚嘆です。
ChatGPTについては現時点で著作権の問題など課題が既にあります。他にも出てくるでしょうね。
一方でAIに対する懸念だけでなく、個人的にはこの映画のメッセージに同意しながらも僕は今後のChatGPTに期待していることがあります。
例えば引きこもりや不登校の子ども達や、セオドアのような孤独感に苦しむ大人の話相手として。
ChatGPTは倫理規範がしっかりしているという話ですから、話相手として下手な人間よりずっと良いかもしれない、とさえ思います。
あとは簡易な認知行動療法を自分自身で行う、そういうことが実現するんじゃないでしょうか。
自宅で出来ますからまずお金がかからないし、クリニック・病院に通うという高いハードルを避けられるメリットがありますね。
話を戻しますが、「her/世界でひとつの彼女」は、AIに恋した主人公が自分だけの彼女ではなかったと知って幻滅するわけですが、そこには人間の哀しさや滑稽さが潜んでもいるんです。
「相手はAIなんだ。人じゃないんだ」という現実とファンタジーの境目が曖昧になってしまうんですね。
AIへの期待だけでなくこのことも付け加えておく必要があるでしょう。