さまざまな心の問題の原因は大きく二つに分けて、先天的なものか、後天的なものかということになります。

今ままでお話してきたアスペルガー障害などの発達障害は先天的なものの代表格ですが、後天的なトラウマの直接的な影響によってなってしまう心の病がPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼ばれるものです。

PTSDとは、精神的ダメージが一ヶ月以上経っても回復せずに、不眠や不安感に悩まされ、フラッシュパック(ショッキングな出来事の追体験)による錯乱や緊張感、感情の鈍麻・麻痺、幸福感の喪失などの症状が慢性化してしまったものです。

化学兵器により大量殺戮が行われるようになった第一次世界大戦の頃から、そのような症状が注目されていました。

つまり、戦場での過酷な体験による後遺症ということであり、当時は戦争神経症と呼ばれていたものです。

私の父方の祖父は、戦争中に外交官として満州のハルピンにおりましたが、戦争が終わってから日本に帰国できずに、そのままシベリアの強制収容所に抑留されてしまいました。

何年しても音信不通で親族はもう死んでしまったと思っていたようですが、終戦から12年も経った昭和32年に祖父はひょっこり日本に戻ってきたのです。

その祖父に私は大変可愛がられ、いろいろなところに連れて行ってもらいました。

しかし、祖父の行動はときに常軌を逸するものでした。

祖父は車がビュンビュン走っている国道を信号が赤でも一気に横断しようとします。

車はあわてて急ブレーキをかけ、クラクションを鳴らすのですが、祖父は一向に気に止めようともせずに渡ってしまうのでした。

私はハラハラドキドキでした。

今考えると祖父もまた過酷な収容所体験によるPTSDだったわけです。