利潤の傾向的低下 -都留重人『岩波経済学小辞典』(1999) 岩波書店。より‐



資本蓄積が進むにつれて長期的には利潤率が低下し、資本にとっての誘因がなくなってしまうのではないかという危惧は、資本主義を〈永遠の自然的秩序〉と考える古典派経済学にとって唯一の暗雲であった。


リカードは資本蓄積が進むにしたがって、食糧需要が増加し、それはより生産性の低い耕地での食糧生産をもたらすが、そうなれば地代(差額地代)が増大し、利潤は圧迫されると考えた。資本家階級と地主階級との利害の対立が、利潤の低下傾向として定式化されたのである。[i]


図1:土地の純生産の中の利潤配分の決まり方


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2:資本蓄積の進行とともに利潤が減っていく[ii]


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これに対してマルクスは、資本の有機的構成(c’=C/V)の高度化から同じ結論を引き出す。すなわち、利潤率(p’)は、


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(ただしCは不変資本、Vは可変資本、Mは剰余価値、またm’=M/V)であって、剰余価値率(m’)が通時的に不変であれば、資本の有機的構成(c’)が高度化するにつれて利潤率(p’)は低下する。マルクスはこれを資本主義の傾向法則と考えた。



傾向法則というわけは、この法則は〈反対に作用する諸要因〉によってその直接的発現を妨げられ、長期的にしか生じないからである。〈反対に作用する諸要因〉として、マルクスは、剰余価値率の上昇、労働搾取度の増大、労働力の価値以下への切り下げ、不変資本の価値低下、相対的過剰人口の圧力、外国貿易の利益、株式会社の増大(マルクスは、株式会社は利潤率の均等化に参加しないと考えている)をあげている。この説明の不十分性は明らかである。


資本の有機的構成の高度化は労働生産性の上昇を伴うはずであるから、それは剰余価値率(m’)を高めるはずであるし、不変資本の価値低下を伴うはずである。これらを単に、〈反対に作用する要因〉としてしまうことは適切でない。c’の上昇とともに、m’も上昇するから利潤率の長期的動向は不確定であるという議論(スウィージーなど)が出てくるのは、当然である。[iii]




[i]  都留重人『岩波経済学小辞典』(1999) 岩波書店。

[ii] 松尾匡『対話でわかる 痛快明解 経済学史』(2009)日本PB社 p492-2,p512-3参照。

[iii] 都留重人『岩波経済学小辞典』(1999) 岩波書店。