*誰でもない二人です。お好きに想像して
ください。
*タイトル違いますが前回に相当するお話
です。





僕は熱を出した息子を連れ帰りながら、
元彼の顔を繰り返し思い浮かべてる。

小学生になったばかりの息子の担任が、
元彼……いやあ、びっくり。


しかもどういうわけか昔より若々しいほど
で、僕よりも二つ年上なのにあれでは二つ
年下みたいじゃない?

若い頃はもっとワイルドな感じだった気が
するけど、今のすっきりとしたスーツ姿は
ずっと洗練されててエレガントだ。

品よく綺麗な大人の男性…
素敵すぎて僕の心をかき乱す。


「おとうさん、せんせいやさしいね」
「そうだね、いい先生でよかったね」


元彼は公立小学校の教師だから、いつか
もしかしたら…ってことは、結婚して
子どもが出来たときから考えてきた。

でも、そんなかたちで再会することが
あるとしても、ずっと先だと思ってた。

体育の先生で、高学年のやんちゃな男の子
を指導するのが得意って人だったから。


まさか、新入生の担任として元彼が
爽やかに現れるとは思ってなかった。

入学式で「!」となったけど…今回、思い
がけず少しは二人で言葉を交わして、また
というか…もっとどきどきしている。

子持ちだけど、僕はシングルに戻ってるん
だよね。


「おとうさん、なんかきつい…」
「もうすぐ家だから。ああ、リュックは
持ってあげよう」




こんなふうになるとは、結婚したときには
思いもしなかった。

誰だって自分が離婚するとは思わないし、
結果的にこうなったとはいえ、そのときは
大真面目だった。


当時、彼のことは大好きだったけれど、
一方で子どもは欲しいなって気持ちも正直
あったし…

しっかりした女性と出会って、この人なら
と思ったんだよね。


それに、ちょっと考えてた…
僕が結婚したら、彼氏だって結婚しやすく
なるかな?なんて。

二人とも、どちらかというと同性が好き
だったものの、異性がだめでもなかった。

向こうが年上なだけに、僕より早く結婚の
プレッシャーが掛かってるようにも見え、
僕が先に結婚したら…ある意味、向こうも
楽になるんじゃないの?…なんて都合よく
考えてたかもしれない。


ああでも、ずっと独身だってね。
それもほんと、びっくりした。

いや、だからって恋人がいないとは
限らないけども。


「おとうさーん」
「はい、よく頑張りました。さあ、手を
洗って…」




家事は元々自信があったし、息子の世話も
意外と苦にはならない。

そうは思うけど、ちょっと寂しい。
それに…別に疲れてなんかないと言いたい
けど、全然疲れてないかっていうとそれも
違うかもしれない。


元妻に未練があるかはよくわからない。
少しはあるかもだけど、何しろ離婚後一年
で彼女は再婚した。


息子の親権を争わなかったのも…
毎週面会してもいいと僕が言ったのに、
月一でいいと言ったのも…そういうこと?

その辺を考えるとイラッとするけれど、
同時に思うんだ。

たぶん、一方的に彼女が悪くはない。
きっと僕の配慮が足りなかったんだろう。



あれはいつだったかな…

僕の好きなサッカーチームが試合に負け、
夜中にモヤモヤして缶ビールを開けた。


「いいご身分ね」
「え~、いいじゃん。週末だし、何も
悪いことしてないよ」

「…そうね、何もしてないわね。で、
それが問題とも思わないのね」


そのときは深く考えずに流した会話…
あのとき、彼女がどんな顔をしてたかも
よく覚えてない。

自分では結婚してる間も家事だって子守り
だってしていたつもりだったけど、たぶん
無意識に…甘えていたんだろうね。


少なくともあの頃は、息子が熱を出して
僕が仕事を中断して迎えに行ったりは
しなかった。

実家に頼み込んで預かってもらってる間に
用事を済ませるなんてのも離婚後で。


何かもっと違うふうにできたらよかったの
だろうけど、過去はもう変えようがない。


「おとうさーん、おとうさーん…」
「はいはい、どうした?ちょっと待って、
すぐ行くから」




世の中の人は誰だって頑張っている。
だから僕が特別なんてことはないけど、
僕も日常でいっぱいいっぱいになってる。

あの頃はわからなかったことが、今…
今さらだけどわかるような気もする。



僕は自分に嘘を付いて、一番好きな人を
置き去りにした。

その人とはどうせ結婚できない…
この国ではそれもそうなんだけど。


鏡を見ると、また僕の髪は変なふうに
はねてたりする。

昔のあの人なら、きっと楽しそうにポンと
頭を撫でたり、くるりと髪に指を巻き付け
たりしただろう。


まあ、今の僕はただのくたびれたおっさん
…僕を見て幻滅したかもしれないな。




父親がこんなこと考えるなんておかしい
かもしれないけど…


あのひとが僕の背中を擦って
「大丈夫、大丈夫」と言ってくれたらな。

また僕の目を見て、嬉しそうににっこり
してくれたらいいのに。

そして耳元で僕の名前を呼んで、そっと
抱きしめてくれたなら…




「おなかいたい~」
「あらら。小児科行く?」

「いまはむり。おとうさん…ううん、
…おかあさん、おかあさん~」

「Dちゃん」



ごめんね、と内心思いながら
息子の背を擦る。

僕は別に頑張ってないし…
僕は疲れてなんかない。




でも父親なのに、いつか遠い日に
自分を撫でてくれた大きな手を…

僕は恋しく想ってるような気がした。






*遅い時間にすみません。そして、

意外と切ないトーンですみません~


*0時半に上げましたが、後書追記して

上げ直します。

*(後書追記)

もう少し明るくしたかったんですが、

たぶんこれ書いたときに自分が疲れてて

それがにじみ出てるかもです…

どうもすみません~~🤭


それと時々「更新情報」見てみてください。

書いてることが増えてますから✨

よろしくお願いします。


*微修正(2023/10/18)、写真差し替え