カランコロン♪


怒号である。すぐに怒りの沸点に達する人のことを「瞬間湯沸かし器」などと比喩することがあるが、まさにその様相。男は一瞬で怒りの頂点に達したようで、喚き散らしながらこちらを威嚇してくる
僕はサイドメニューを鞄に入れ忘れたこと、店舗に連絡はしてあって今作っていることをもう一度丁寧に説明し、そして謝罪した。
しかし当然男の怒りは収まらない。「責任者を呼べ!今ここで電話しろ!」とまさに僕の胸ぐらをつかむ勢いであった。
僕は安堵した。「責任者」、これは昨日までなら店長代理の僕のことになる。しかし今日からは違う。店には店長がいる。しかも今日はさらに上の立場であるエリアマネージャーもいるのだ。こんな怒り狂った男の相手をするのが自分ではなくていいと思うとすごく安心した。
「少々お待ちください、責任者に連絡しますね」僕はただのアルバイト店員で阿呆のようにピザを運ぶだけのデリバリーマシーンなんです、というオーラを出しながらその場で店舗に電話した。
「もしもし、青山です。エリアマネージャーに代わってもらえますか」と言い、現状を説明した。スパスパと煙草を吸いながら男はこちらをにらみつけている。どうやらポテトはもう焼きあがったようで、今から持っていく、5分ほどで着く、とのことだった。
「どうなってるねん」と電話中の僕に男が問いかけてきたので、その旨を伝えた。まさに板挟みである。もう二人で直接話してくれたほうがスムーズなのに、と思った。
「お前はここに残れ。お前が帰ったらもっかいお前に運ばせるつもりやろ。ほんで責任者にポテト届けさせろ!」
怒りながら僕に伝えてくる。変なところで頭が働く男である。
ということでエリアマネージャー直々にサイドメニューは運ばれることになった。
電話を切ってからの5分間。僕は何をするでもなく、客前でぼーっとしていた。だって出来ることがないからね。男はずっと煙草を吸っている。一体何本吸うんだ、この男は。
限りなく気まずい時間である。男はまだ怒りを滲ませていたがしがないただのバイトオーラを出す作戦が功を奏したようで、僕に対しては何も言ってこなかった。
5分後、デリバイクに乗ってエリアマネージャーが到着した。僕は正直、少しわくわくしていた。クレーマーの取り扱いには自信を持っていたエリアマネージャーがどんな対応をするのか。そのテクニックが間近で見られるのだ。僕ならこんな瞬間湯沸かし器の相手はしたくない。
「大変お待たせいたしました。こちらの手違いでご迷惑をおかけして申し訳ございません」と謝りながらサイドメニューを取り出した
男は「お前、どないなっとるねん!」と大声を張り上げながら吸っていた煙草をエリアマネージャーに投げつけた。「わお」と僕は心の中で驚嘆した。「火のついた煙草を人に向かって投げつける」、小学生でもそんなことしてはいけません、と火を見るより明らかな行為を平気で実践するこの男、僕が思っていたよりもやべぇやつかもしれない、と。

「大変申し訳ございません」

~⑤へ続く~


カランコロン♪